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[コメント] 華麗なるギャツビー(2013/米)

宿題に出された「ギャツビー」を読解する(アメリカの)高校生のように、「ギャツビー」を読んで絵にしてみせるバズ・ラーマン。映画にはいろいろ文句はあるけれど、「ギャツビー」を久しぶりに再読しようという気になった。
イライザー7

もし宿題か何かで「ギャツビー」を読まなきゃならないんなら、この映画を見るといい。それくらいこの映画は原作に忠実だ。フィッツジェラルドのかっこいい決めゼリフをふんだんに使って、使いすぎてどれも印象に残らないくらいだし、ストーリーの中でギャツビーの真の経歴が唐突に明かされるのも、映画ではずいぶんサスペンスを欠いた明かし方に感じるが、これも小説の順序通り。小説通りじゃないのは、せいぜいニックとジョーダンの関係ぐらいかな。

で、バズ・ラーマンは、全部を絵にしようとして、全部を薄くしてしまっている。たとえば、トムとギャツビーの屋敷。トムの代々の金の厚みとギャツビーの成り上がりの薄さの差がもっとあっていいのに、絵としてはどちらも同じようにキラキラしい。ギャツビーが湾向かいのトムの屋敷の灯りに手を伸ばすシーンや、ギャツビーの初登場の笑顔のシーンの処理なんか噴飯ものだし。

紙芝居かよ…と思いながらも、紙芝居ゆえに気づいたこともあった。

私は、この原作が、というよりこの原作の良さがどうも理解できず、村上春樹やいろんな人がこの本をほめるたび、うっすらと困惑していたのですが、ディカプリオを見ながらうっすらとわかった気がします。この小説を愛する人は、ギャツビーの野心が純粋であることを、愛しているわけなのですね。そしてアメリカ人たちは、自分たちの愛するアメリカン・ドリームが、イノセントなドリームだと語ってくれるこの小説を、愛しているのですね。

アメリカン・ドリームと言うと、経済的な成功を求めすぎている感じがして、なんか反発心があったのですが、アメリカ人たちはそうは考えていない。それは根っこの部分ではとても無垢で汚れのない、夢とか憧れとか、なにかとても美しいものと考えているんだ…と、気づきました。

まるで新発見のように言っていますが、昔からこの小説の主題は「イノセンス」とか「失われたイノセンス」とか言われているのだから、私がどれだけ理解が遅いのかよ…ってことですが。

デイジーがどんなに軽薄でバカな女の子でも、いやそうであればあるほど、ギャツビーのイノセンスは際だつ。そんなはかないもののためにギャツビーは全てを賭けたのだから。

映画としては成功していない、と思う。でも、読み返す気には全くならなかった「ギャツビー」をもう一度読みたい…そう思わせたくらい、ギャツビーの「失われた夢」には心を打たれた。

(評価:★4)

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