[コメント] 風立ちぬ(2013/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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その卓越した表現技術が本作で表現したのはいったい何だったのだろう?おそらくその受けとめは、見る人によってかなり異なって見えるのではないだろうか。
宮崎駿監督にしては異色といえる、数十年前とはいえ現に存在した日本の社会と実在の人物を二人一まとめとはいえモデルにした本作では、空想的なシーンは登場人物に見る「夢」としてはっきり区別されて示され、変わりに現実の戦前日本社会の姿がキーワードのように現れる。
関東大震災、大恐慌、日中戦争、特高警察、満州国建国、国際連盟脱退、ヒトラー、対米開戦、ゼロ戦、などなど。それらの史実について、映画を見るものがどう思うかで、本作が何を表現しているのか、様々な受けとめがあるのではないだろうか。
ゼロ戦について、その設計をめぐるシーンの中で主人公は「もっと軽量化が必要だ。機関銃を降ろせればいいのだか。(あるいは、重過ぎる、だったかも)」みたいな台詞が出てくる。ねじの頭を丸みのある形から平らにするほど軽量化にこだわっても、戦闘機ゆえに機関銃を降ろすという選択肢はありえなかった。
ではゼロ戦の徹底した軽量化はどうやって達成されたのか。それは、防弾装置を皆無なまでに削減することによってである。
たまたま無傷に近いゼロ戦の機体を入手した当時の米軍が、高高度での性能の低下と降下性能に弱点があること、防弾装置がゼロであることを知り、その対策として開発したグラマン戦闘機の前に消え去ったのである。
ゼロ戦の試作1号機は1939年に完成し、1940年に海軍に制式採用された。そして同年の8月から12月にかけては、中国で13機のゼロ戦が無傷のままでソ連製中国戦闘機27機を全機撃墜したのをはじめ、22回の出撃でのべ153機が攻撃に参加し、撃墜59機、撃破(墜落まではいかないが戦闘不能にさせた)101機の戦果を挙げ、ゼロ戦の撃墜は1機もなかった。
かくしてゼロ戦は大量生産され、敗戦までに10908機が生産されたが終戦時に残っていたのは約1千機に過ぎないといわれている。(ちなみに「ゼロ戦」と並び称される日本陸軍の名戦闘機「隼」の生産機数5751機)
大半のゼロ戦は還ってこなかったのである。まさに「呪われた夢」であろうか。
結核に冒されたヒロインが絵を描きながら喀血する。喀血そのものは描かれないが、滴り落ちる血の何と生々しいことか。その血は、本当にヒロインのものだけだったのだろうか。ゼロ戦に乗った者たちの血でもあったのではないだろうか。
後、割とどうでもいいことかもしれないけど、本作には近年の映画には珍しいくらい、ばんばんタバコ吸ってるね。主人公はいうに及ばず、みんなタバコ吸って「一本くれ」と言っている。最近では実生活では、複数のタバコを吸う人間がいないから「一本くれ」みたいな言葉も聞かなくなってきた。さらに仕舞いにはシケモク(この言葉自体がもう死語になりつつあるね)まで登場する。
これはあれか、昔は良かったというある種のデカダンスなのだろうか。
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