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[コメント] そして父になる(2013/日)

久々に心撃ち抜かれた傑作。自分にはこの重さが心地よかった。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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40代以上の人にしか分からないとは思うが、私は子どもの取り違えなんてものは、百恵ちゃん主演の「赤い運命」の中での話くらいにしか思っていなかったのだが、それが自分が生まれた昭和40年頃までは頻繁に起こっていた事件だということを今回初めて知り、深い衝撃を受けた。加えてその結末が、当時においてはほぼ100%に近い形で「交換」というものであったという現実にも驚いた。これは、何より血を重んじることが大切とされていたり、男尊女卑により母親である女性の思いなど聞かれるはずもなかった当時の社会が色濃く反映された結果だと思うが、現代においては考えられないそんな事件の衝撃を巧みに用いながら、事件そのものの結末へと向かう過程の中で、「血のつながりとは、家族とは何か?」という、現代にもつながる命題に一石を投じた是枝裕和の感性に、まずは心からの賛辞を贈りたいと思う。本当によくこんな映画を思いつき、そして形にしてくれたものだ。

本作に対しては、言いたいことがありすぎて本当にまとまりきらないのだが、そのようなものを、これだけはというところまで突き詰めてみると、ひとつには「言葉」の素晴らしさが挙げられるのではないかと思う。

「やっぱりそういうことか」、「何で気付かなかったんだろう。私、母親なのに」、「金で買えるものと、買えんものとがある」、「あんなたは金で子どもを買うんか」、「わざとやりました」、「あの女だけが」、「子どもたちは、これからどんどんそれぞれの親に似てくる」、「大事なのは血だ」、「血なんてつながってなくても情は湧く」、「私は、そのつもりであなたたちを育てた」、「凧上げがしたくて」、「頭をなでると、あなたと一緒」、「琉晴が可愛くなってきた」等々、決して長くはない「言葉」の中に、物事の本質が問いかけられていて心に響く。その中でも特に印象に残る言葉は「何で?」かな。その理由は言わずもがなでしょう。

また、ふたつには「役者」の素晴らしさ。今回難役に挑んだ福山雅治の頑張りはもちろんのこと、対となって良きパパを演じたリリー・フランキー、一見粗野に演じながら、数々の抱擁を相手によって使い分けるという細やかさが光った真木よう子、そして揺れ動く感情を、静けさの中にも豊かに描いた尾野真千子。そのキャスティングの妙。そしてキャスティングといえば忘れてならない子どもたち。主役となった2人の子どもたちはもちろんのこと、末っ子のヤマトくんの演技なのか地なのかわからないあの可愛さ。最後に両方のお兄ちゃんに抱きつくでしょう。ああいったところがさり気なく撮られているところも堪らなかった。

これ以外にもまだまだ話したいことはいっぱいあるが、とにかく本作は、久々に心撃ち抜かれた作品であった。中にはこの重さに耐えられないという方もおられるだろうが、自分にはこの重さが心地よかったことを、最後に付け加えておきたい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)甘崎庵[*] けにろん[*] 3819695[*]

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