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[コメント] 8月の家族たち(2013/米)

メリル・ストリープが十年一日のスタンドプレイに走り、私のげんなりは早くもフルテンだ。家庭や心身に問題を抱えた母親の、ではなく、大概にせえやと諌める目上や側近がおらなくなった大女優の悲哀が滲む。ジュリアン・ニコルソンと出逢えた幸せだけを胸に抱き、私はそそくさと劇場からの帰路に就いた。
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あるいは彼女たちの芝居の応酬を好意的に迎え入れることができたとしても、これが戯曲を原作に持つ映画の限界の内にのうのうと甘んじた作であることは否みがたい。もちろん「ロケーション撮影によって風景と気候を画面に取り込める」という、映画が舞台演劇に対して誇る最大級のアドヴァンティッジは要領よく活かされている。とりわけ土地性・季節感が根底に敷かれた物語なのだから、その一点のみをもっても映画化の意義は存分にあったと云うべきだろう。しかし、たとえば(比較的公開時期が近かったため例に挙げるに過ぎませんが)マノエル・ド・オリヴェイラ家族の灯り』が『8月の家族たち』以上に舞台演劇的特徴を残しつつ、それでもなお「映画」としか云いようがない何かであったのはどうしてだろうか。安直かつ抽象的な物云いになってしまうのは不服だけれども、やはりその秘はひとつびとつのカットを飽くことなく研ぎ澄ませることにあるようだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)disjunctive[*] 緑雨[*] けにろん[*]

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