[コメント] あん(2015/日=仏=独)
お話にならないくらい甘々の泣かせ話だが、あくまでナチュラルさを貫く会話術がそれを気にさせない程度に救っている。樹木希林は老いたる不思議娘を軽やかに、病歴をもつだけの普通の婆さんとして演じているし、内田伽羅もさることながら、モブでしかない女子中学生たちのさえずる小鳥のような演技も見事なものだ。難病映画の役者、かくあるべし。(追加)7月29日レビュー追加。
正直、この映画のありようには怒りを禁じえない。なんでこんなテーマでいまさら考えることがなければならないのか。ワイラーの『ベン・ハー』から半世紀を経ているんだぞ。ハンセン病がいまだに「考えるヒント」になるなんて、世の民衆はどれだけ考えるふりをして何も考えずに来たか丸わかりじゃないか。ハンセン病は「治る」病気であって不治の病ではない。病人を憐れむのは勝手かもしれないが、感染者は昔とは違って生きているあいだに病気におさらばできるのだし、空気感染するなどという伝説も悪質な噂にすぎない。
栗本薫のヒロイックファンタジー小説『豹頭の仮面』に、「らい伯爵」なるハンセン病の悪役が出てきて問題になったのも、考えてみれば昔のハナシなのだよなあ。この伯爵は「業病」に冒されて全身が腐り果てていながら、悪の支配者として采配を続けるというとんでもない男だったのだが、あの時代でさえ猛反発を食らって改稿を余儀なくされたものだ。栗本も問題作家だったが、当時にしてこんな設定はまぎれもないアナクロでしかなかったのだ。
それをいまだに泣かせのタネにするのか。そんな世の中に中指を立てたい。「ハンセン病? だからなんなの」と言える時代じゃないのか。マジに樹木希林もこの映画の泣かせ体質を嫌っていた。だからこそ普通の婆さんとして演じたといっていた。この人も「判っている」ヒトだ。『あん』なんて作品はいずれ風化してほしい。それが健康な時代っていうものだ。たとえハンセン病が別の事項の暗喩であるとしても、同情は蔑視の裏返しであるはずだ。
作品自体は「技術的に」よく撮れている作品としてこの点数は変えない。
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