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[コメント] 教授のおかしな妄想殺人(2015/米)

エマ・ストーンの続投からも分かる通り、『マジック・イン・ムーンライト』の対となる作品。「ミューズ(笑)」を軸に、男の厭世のこじれの反動が陰に振れるか、陽に振れるかのケース比較の解説で、これは前者に解放されてしまったほう。頭がいいのか悪いのか、こっちにハマってしまう、際どく哀しいおかしさ。ハンナ・アーレント曰く「悪は凡庸」。
DSCH

**ネタバレ注意**
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対になっていることで見えることは、世界は解釈したように開かれるという自由についてだろうか。人生は選択である。自由は不安を生むが、開かれた選択の可能性でもある。その可能性は陰も陽も生む。本作ではこの世界の解釈の選択肢の自由を否定してはいないが、前作のコリン・ファースとは真逆の残念なケース=信念=世界の「是正」という意思によって行われる殺人のメカニズムを分かりやすく、哀しくおかしく解き明かしてみせる。

厭世家は、実は世界を愛したいという理想や願望の裏返しに囚われているだけで、根はいい人というのは珍しくない。坂口安吾も、「自殺した人は、誰よりも善く生きたかった人だ」と言っていたんじゃなかったかな。これが残念ながら危険な方向に触れることもある。凶行を起こした人間が、周囲から見るといい人だった、ということは、ありふれたことなのだ。彼が狂人だとか、特殊と解釈することは危険である。生き甲斐の先の選択肢を間違えただけ。換言すれば、誰でも陽気な殺人者になりうる。悪は凡庸。この点に気付かないエマ・ストーンは、一見聡明なようで、ちょっと足りてないという感じ。前作のあっけらかんに隠された人生の叡智と対照されている。更に換言すれば、誰もが前作のコリン・ファースのように生きることもできる。世界は『マジック・イン・ムーンライト』的であってほしいと思う。

原題Irrational Manとは不合理な男の意。ダリウス・コンジの撮影は前作ほど明るくはないが、それでも、暖かくやわらかい日差しの中にある。大きく優しげに開かれた海辺のシーンもいい。「可能性」の象徴か。他に選ぶべき選択肢が手を広げているのに、それに気付かない。それこそ不合理。

これを考えながら、私の念頭には相模原の事件があった。残念ながら、彼は狂人ではないのだと思う。このことに思いを馳せなければならないと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ロープブレーク けにろん[*]

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