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[コメント] 女の座(1962/日)

とんでもなくブラックなナルセ最後の喜劇
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







乾物屋を仕切るに至る淡路恵子がラストを担うことからも、彼女と三橋達也の馬鹿夫婦が本作の主演と捉えればすっきり観れる。九州で職を追われたふたりが生家にずるずる居候し、果ては家を乗っ取らんと画策する話なのだった。他の兄弟たちも狙いは同じ。終盤に兄弟が押しかけるのは「オリンピック道路」の補償による財産分配が住民運動で破綻したからだった。

企業の株価を暗誦している三益愛子、浮気に失敗して戻ってくる加東大介(「帰って頂戴」「いや俺、帰って来たんだよ」)、実にいい加減にラーメン屋を経営する小林桂樹、その厨房に入って勝手にラーメン作り始める夏木陽介、喪服がないのを愚痴り続ける丹阿弥谷津子、怪しい宝田明。みんな面白い。これら貧乏の鬱屈がつみ重ねられて財産争奪のラストに突入する。司葉子はブラジルへ、星由里子は富士山頂へ逃げるのだろう。

新民法による財産分配の修羅場、という松山善三が書き続けた主題はナルセと相性が良かった。いまや常識だが、当時は異常事態だったに違いない。凸ちゃんと笠智衆杉村春子の造形は肉付け甘くて不足気味(息子の大沢健三郎君謎の死は凸ちゃんの居場所を奪うための段取りに過ぎないし、杉村はあり得ないほどの善人だ)。

しかし、旧家を処分して新興住宅地に引越し先を探し、行き場のない凸ちゃんを引き取る老夫婦、とは爽やかであると同時にブラックだろう。当たり前だが財産は笠のものであり、息子たちには一文も渡らない。淡路たちの皮算用はヤルセナク終わり、女の座を取り損ねる。家父長の報復は生前なら有効なのであった。

宝田明を前にして初々しい草笛光子がいい。俳優だからこのくらい基本なんだろうけど、初々しい草笛など観るのは初めてで度胆を抜かれた。ただ、この凸ちゃんとの三角関係のエピソードは全体から浮いている憾みがある。ベストショットは河原における三橋のおてもやんの踊り(熊本民謡なんですな)。本作は彼の代表作のひとつに違いない。気象庁の夏木がそぼ降る雨を見て「今日は放射能は降っていません」と云うのは、第五福竜丸絡みなのだろう。本作、老夫婦の代わりに加山雄三がいれば、そのまま『乱れる』に変奏される。

(評価:★4)

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