[コメント] この世界の片隅に(2016/日)
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シネマ旬報で輝かしい本年度ベスト1に輝きましたね。邦画の当たり年とも言われ、アニメーション映画で言うと今年は『君の名は』が世間を騒がせましたが、やはり知名度や人気度とは違いますよね。同じアニメというジャンルだとしても格の違いを感じた作品でありました。
能年玲奈、もといのんか主演になったと言うことで耳にしていましたが、実に彼女のイメージ通りのおっとりとしたキャラクターが主人公のすず。おとぼけでおしとやかで笑顔が可愛い、そんな雰囲気を第二次世界大戦真っ只中でも持っていたすずはまさにこの世界の中に咲く花。周りの誰もが癒される。観客も例外ではない。この作品の魅力の一つとして、まずすずというキャラクター無くしては成り立たない。
そしてこの作品の舞台が呉という町であるわけだが、史実に基づいているため、我々は8月6日に何が起こるか知っているのだ。知っていて、そこに向かっていくわけだ。すずは広島から嫁に出てきたわけだから、最悪の事態を想像してしまう。すずというキャラクターが魅力的で、魅力的であるが故にどんどん惹かれていき、強く強く無事を祈る。
すずだけでなく、周りのキャラクターもみんな温かく人間味がある。そんな人々を次の瞬間には二度と話せなくしてしまうのが戦争だ。一瞬で全てを消してしまう恐ろしさ。初め、呉の町にも空襲が起こり始め、警報がなり、戦闘機が飛び回り、空の上での戦いが繰り広げられる。この辺りの戦いはもちろん、空爆が落とされるシーン、この手のシーンの描き方はアニメーション映画ならではの表現の仕方で素晴らしい。空がすずの趣味と相まって鮮やかなカラフルな煙に彩られたり、真っ暗な防空壕が画面の枠を破らんとばかりに激しく揺れたり、戦争というものを実写では表現できないシーンでより印象的だった。
ラストに向けて、あんなに明るかったすずの口数が少なくなっていく。笑顔を見せなくなっていく。世界の片隅に咲く一輪の笑顔という花を容赦なく奪っていく戦争。アニメなのに、いや、アニメだからこそグッと心に来るものがあった。迂闊にも泣きそうにもなった。それほど心が揺さぶられた作品。 それでも今があるのはそういう時代を乗り越えてきたからだ。辛かった現実がある。それでも挫けなかった。未来を見据えていた。手を取りあり、助け合って復興してきたのだ。アメリカを批判する映画ではない。戦争の中を必死に生きてきた人がいる。戦争があって辛く苦しく絶望しても笑顔を持つことが必要なのだ。 呉の町に光が灯りだす。空には光が瞬き出す。こんなに世界は綺麗なんだと。新海さん、『君の名は』然りあなたの世界はいつも綺麗で眩しすぎるけど、本当に綺麗な世界とはこういうことだと、こういう表現の仕方だと思う。
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