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[コメント] 海辺のリア(2016/日)

主人公の老優、桑畑兆吉のキャリアは彼を演じる仲代達矢そのもので、さらに舞台は仲代のホームグランド石川県の海岸。おそらく作者の小林政広は桑畑と仲代をシンクロさせることで、そこから生まれる予測不能な映画的な「何か」を撮ろうと試みたのでしょう。
ぽんしゅう

でも、仲代があまりにも「芝居」が上手なので、ものの見事に台本に書かれた桑畑兆吉を演じてしまい、それ以上でも、それ以下でもなく、小林政広監督の実験はあえなく失敗したように見えました。それに輪をかけて黒木華さんも「芝居」が上手なので、台本(お話し)の単調さばかりが目だって退屈でした。むしろ、きっちりとした台本など作らず、仲代達也と黒木華によるリア王と娘コーディーリアに被せたセミドキュメンタリーにでもすれば、もっと違った「何か」が出てくる可能性があったのでは、と思ってしまいました。

私は昔から仲代達矢が演じる“リアル”な生活者というのが、どこか芝居じみていて現実感がなく苦手(はっきり言えば嫌い)でした。今回の認知症の老人の口からでる言葉は、はなから現実から遊離していて“リアル”を生きる人々の実感とまったく噛み合わない設定です。いわば、放たれっぱなし、言いぱなし。相手や観客の反応を計算しなくてすむ一人芝居のセリフのような設定。その分、仲代が語る「言葉」に無用な計算や力みがなく、実におおらかで気分よく聞けました。

それが、仲代達矢恐怖症の私にとって、うれしい誤算であり、唯一の救いでした。

(評価:★2)

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