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[コメント] 危険な情事(1987/米)

表面的な描写と周到なプロット語りによる物語は、下手なB級に堕してしまう危険を十分に孕んでいたが、主役2人の本物っぽさが信憑性を生んで成功したGOODサスペンス
junojuna

 クリント・イーストウッド初監督作である恐怖のメロディをいただいたと言われる80年代のヒット作品である。本作でのラストにおいて、グレン・クローズ演じるアレックスがモンスター化する描写に、鑑賞者の好みが大きく分かれるようであるが、その実は映画をビジネスと割り切って徹底するプロダクションの賢さに軍配が上がっているように映る。エイドリアン・ラインが狙った映像設計は、それなりのサスペンスムードを醸し出しており、おおむね良好であった。しかし、本作をもしスタンリー・キューブリックが撮っていたとしたら、とてつもなく恐ろしい映画になったであろうことを思わせ、ゆえにサスペンスとは、テンポやリズムではなく、カットの佇まいに漲る緊張感であることを改めて知り得た。 この映画は、最終的に人物の生死の局面を描く即物的な結末となっているが、本作での重要なモチーフは、男と女のセクシュアリティのしのぎである。その官能的な肉体と感情的な心の反駁しあう男と女の距離こそが、この映画の極論である。そのハイライトはダン(マイケル・ダグラス)が車中で聞く、アレックスのテープで語られるダン=男を罵る言葉にすべてが集約されている。そこでは、ダン×アレックスという関係を超えた恒常的な男×女の関係性が的確に言い表わされており、それは、男が男を演じようとすればするほど、その逆女が女を演じようとすればするほどのめりこむ、セックスという欲望を介した異性関係への哀れさを痛感する瞬間なのだ。そうした性差の中、ダンには愛する家族があり、順風な社会的地位があるということで、アレックスとの距離をアジャストできる優位的な立場を持ち得ていることは重要であり、それに反してアレックスにはそうした安住に帰属できる基盤を持たなかったために、力学的なセクシュアリティのプレッシャーに負けてしまい、破滅への道を辿ることとなるのだ。マイケル・ダグラス×グレン・クローズ。この二人はいかにもセックス・モンスターという風情を湛えて本物感がひしひしと伝わってくる。多かれ少なかれ、凡人には到底真似できない修羅場をくぐりぬけてきたであろうことは容易に推測できる。それであってこその本作での存在感。この映画は、当の主演2人からにじみ出ているエモーションが映画的に再現されるという奇跡をもって実を結んだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)りかちゅ[*] 緑雨[*]

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