[コメント] ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦(2016/チェコ=英=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
また戦闘シーンだけでなく本作の隅々にまでナチスによる恐怖支配の圧迫がかいま見えて、映画全体に緊張感を与えている。そういうヒリヒリした空気の中で、キリアン・マーフィとジェイミー・ドーナンは好演している。
ところで本作は最初と最後に、その時代背景について短く字幕で淡々と述べている。最初は1938年の英仏独伊によるミュンヘン協定により、ナチスによるチェコ占領あるいは併合が認められた事を紹介し、最後の字幕ではハインリヒ暗殺への報復行為として5千人とも1万人とも言われる市民を虐殺した事を理由に英仏がミュンヘン協定を破棄し、チェコ亡命政府を連合国側の一員として認めた事を紹介している。
劇中、レジスタンスのリーダーの1人はハインリヒ暗殺に強硬に反対した。彼は、連合国軍の軍事侵攻=プラハ解放の戦いの結果としてハインリヒが殺害されるならまだしも、プラハ全体をナチスが占領したままでハインリヒ1人だけを暗殺する事がもたらす結果、暴虐な報復どころかチェコが丸ごと消滅させられるかもしれない事を恐れた。
それでもロンドンの亡命政府は、ハインリヒ暗殺の実行を求めた。それはチェコがナチスの属国のままと思われている状況下では、ナチスが勝とうが連合国が勝とうがいずれにせよチェコの未来はないと考え、それを打開するために無残な報復を受けようとも、或いはむしろ大量の「血の代償」を払うことによって、連合国の一員として認められる事を求めたからではないだろうか。
単なる私の思い込みかもしれないが、それゆえ、本作は、冷徹非情な国際政治の力学が世界大戦において人命を軽んじた最中での悲劇を描いた映画のように感じられた。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。