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[コメント] 花筐 HANAGATAMI(2017/日)

全編を通して急き立てるように“音”が鳴り続け、変幻自在に再構築された“画”が少年少女の想いを増幅する。狂気と紙一重の無邪気さで、黄泉の気配のなか止めどなく噴出する青い生。生命力をもてあました亡霊たちの青春映画。そんな違和と矛盾が充満している。
ぽんしゅう

80歳を前にして大林宣彦監督のなんと自由で奔放なこと。デビュー作『HOUSE ハウス』を40年前に観たときと同じ衝撃を受けた。

執拗にデコレートされた音と画による非リアル感もさることながら、42歳の長塚圭史、36歳の窪塚俊介、28歳の満島真之介が17歳の高校生として、14歳の少女3人(全員20歳代の女優さんだ)と繰り広げる“危うい”青春譚という、日常感の徹底した無視ぶりが素晴らしい。

このリアル感の排除による違和が、76年前、大戦突入前夜の少年少女が放つ熱量を断熱ガラスの向こう側に閉じ込め、亡霊たちが繰り広げる狂騒を客観的にながめているような効果を生み出している。彼らと私の間にある距離、すなわち違和こそが、死と生の距離なのではないだろうか。和服姿の常盤貴子が左右反転するシーンが頻繁にある。そのたびに、反転して左前になった着物の襟から「死」を連想して、私の胸はざわついた。

終盤、戦争について「言葉」にして語られる部分があるが蛇足に感じた。スクリーンに充満する違和と矛盾の薄気味悪さから背景に流れる死(戦争)の空気は充分に伝わってきた。とは言え、それでも「言葉」にせずにはいられなかった大林監督の「今」に対する危機感は充分に理解できます。

(評価:★5)

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