[コメント] 女王陛下のお気に入り(2018/アイルランド=英=米)
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本は投げつけるために配置され、権力は濫用されるためにあり、政治は痴話喧嘩の舞台となり、民の命は失われるためにある。本来の意味をなさない、という意味で女王とアビゲイル、そしてサラ、三者三様の場違いな中毒症状が、意識的であるか無意識的であるかに関わらず実質政治を動かしていることのおかしさと悲しさ。権力も富も、あるいは愛でさえも、まともな人間の手には負えるものではないのかもしれない。
貶すつもりつもりはないが、例えばリドリー・スコットなら確実にイングランドvsフランスの最前線や暴動の描写を入れてくるだろうが、ランティモスはそれをしない。敢えて描かないことで、視野狭窄感、覗きのイメージが強まっている。広角レンズを使っているにも関わらず。この点、視線が曲がりなりにも外にも向いていたサラのものというよりは、女王やアビゲイルの内向きな視線寄りなのだろう。
女王をアナグマと罵り、ビンタもかますが、嘘だけはつかなかったサラが最後に一つだけ嘘をつき、それが女王に届かないくだりはそれなりに胸が痛んだ。いよいよ愛というものがわからなくなる秀逸な挿話だと思う。ランティモスとしては確かに普通寄りの映画かもしれないが、只の昼ドラ以上の感慨は確かにある。
地べたに座り込んで菓子を貪り、嘔吐するコールマンの描写がすごい。モンティ・パイソンの反吐袋並のグロテスクさ。パワハラ、モラハラ、セクハラのリズミカルな応酬のスピード感は特筆もので、これだけのハラスメント描写と女性下剋上のエッセンスを入れながら社会派にする意図が毛頭ないランティモスの傲岸不遜さが頼もしい。主演三人に隠れて目立たないが、ニコラス・ホルトの慇懃無礼な振る舞いや夜の散歩での突き落としなど悪意満点。エマ・ストーンの作業的手淫を受けてアホヅラする貴族の描写には「ようやるわ」と呆れた(褒め言葉)。
撮影監督が変わってキューブリック的意匠は少し影を潜めたようにも見えるが、照明の処理やラスト近くだけ(若干だが)哀れみを寄せる温度感も含めて『バリー・リンドン』を想起せざるを得ないし、仰角カメラが醸す戯画感は『時計仕掛けのオレンジ』からの影響大だと思われる。
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