[コメント] COLD WAR あの歌、2つの心(2018/ポーランド=英=仏)
時の流れから覚醒を促すように、カット頭に強く挿入される「音」が印象的だ。15年に及ぶメロドラマなのに互いの“心情”は描写されない。女と男は、語られない時間や写されない事情など初めから存在しなかったように、そのときの“状況”のもとで互いを求め合う。
信頼する庇護者であるはずの父親から体を求められて手をかけてしまった少女ズーラ(ヨアンナ・クーリク)。純粋な民族芸能の伝承を目指しながら「革新」を迫られる音楽家ヴィクトル(トマシュ・コット)。二人が置かれた立場とは、同じスラブ系民族でありながら高圧的に社会主義体制を強いてくるソ連に対するポーランドの戸惑いの暗喩であり現実でもあったのだろ。
最後に「両親に捧げる」と1957生れのパヴェル・パヴリコフスキー監督の献辞が示される。半ば“心情”の発露を封印されたなかで、いまある“状況”を受け入れて正直に感情にしたがうこと。両親世代にあたるズーラとヴィクトルの激しくも矛盾に満ちた愛の交感に、冷戦時代と1989年の民主化の両方を知るパヴリコフスキー監督は、自らのアイデンティティを見るのだろう。
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