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[コメント] SHADOW/影武者(2018/中国)

やや独特ではあるが様式美をつらぬき、少し切ない情愛を描いた映画と思っていたら、最後の最後で、なんとまあドロドロの人間劇になった。そしてまたそのドロドロさがたまらん。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







陰陽をしめす対極図といい、独特の傘をヒントにした武具と武術といい、船で乗りつけるしかなく実用的とは思えないが荘重な宮殿といい、いかにもチャン・イーモウ監督らしい、様式美が堪能できて、それはそれで楽しめた。

奪われた領土の奪還をめぐる王と有力な重臣との確執など、ある程度のどんでん返しはなんとなく読めて、影武者の母親が殺害されていた場面あたりからは、「ああ、なるほどなあ。こういう形でケリをつけるのか」くらいに思っていた。

ところが最後の宮殿でのシーン、とりわけ王がみなを帰したあたりからもう二転三転、目まぐるしく場面が変わり、みながみな殺しあうような、なんかB級アメリカ映画にありそうな、最後はみんなが同士討ちで死んで終わりにするのかとも思った。

そのあまりの変転の最中では影武者の母親を殺させたのは一体誰だったのか、都督なのか、それとも王の策略なのか、もうどうでもよくなってくる。

様式美も人の情愛も投げ捨てて最後は、一国を手中におさめるという野心と欲望がむき出しになって殺しあうドロドロぶりは、いよいよ映画のラスト、影武者に続いて宮殿から出ようとした都督夫人の逡巡のまま幕切れすることで、ある種の爽快さというか、納得みたいな気持ちよさを感じさせた。

背後から王を刺した都督は、あたかも命短い自分が全てをかぶるから夫人を連れて逃げろと影に言いつつその背では新たな剣を抜いていた。何のことはない、彼は弱った身体で影を殺すとしたのだ。なぜなら王の死体がある以上、王を殺した人間の死体がいるからだ。それがあってこそ彼は王を殺した刺客を倒した功臣として、堂々と王位を手にすることができるからだ。

そしてその都督を倒した影武者は、今度は王に忠義を尽くすふりをしながら逆に王にとどめを刺し、それを無名の刺客の仕業にしたのだ。これで彼は非業の最期を遂げた王の敵を討った誉れを手にして一国を手に入れた。

もちろん影武者の存在を知るもう一人の大将(傘の囚人部隊を率いた将軍)がいるから、彼が全てをばらせば影武者はおしまいである。しかし影武者はそうはしないと踏んだのだろう。何故なら突如として一国の運命が変わるという大事に何の準備も心構えもしなかった者は、自らの保身と小さな欲望でしか動けないと見たのではないか。

仮にかの将軍が全てをばらして一体どうなるというのか、王は死んでいるし人望を集めた勇敢な都督もいない。一体これでこの国がどうなるのか、とまで考えたら、とりあえず影武者の言い分にすがるしかないと賭けたのだろうなあ。

そして最後、すべての真実を知り、しかも都督夫人として生き証人になりうるたった一人の女性はどうするのか、最愛の夫は死んだがそれでもその意志に殉じるのか、それとも自らに好意を持っているであろう新たな一国の支配者になる男についていくのか、そういえばたった一度の不貞を夫に見られたかも・・・まさに愛と保身と正義ともろもろの感情がぶつかり合った、まさしくドロドロのラストは最高だったと思う。

(評価:★4)

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