[コメント] ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん(2015/仏=デンマーク)
いかに困難な旅であっても「彼女はきっと力を尽くす」と信じられることが、なんと尊いことかと思う。
短い尺、少ない場面、シンプルで美しい画。しかし膨大な想像を巡らせられる。冒頭から決意に至るサンクトペテルブルグの一連の場面は、少女と映画の動機を描ききっており素晴らしい。一例をあげるなら、祖父の部屋へ忍ぶ際、胸像の裏から鍵を取り出してドアを開ける、開けながら少女は後ろに目を配る。この行為を見られてはならぬこと、それが親とその背後にある社会への反抗となること、しかし少女は十分に自覚していないこと(自覚していれば鍵を取り出す前に辺りを見回すだろう)。ほんの小さな芝居に、大きな意味が込められている。果たして少女は祖父の部屋で耳飾りとともに、祖父の辿った真の航路が書かれたメモを発見する。発見のトリガーは、突然部屋に吹き込む一陣の風だ。冷たい牢獄のような貴族の館から、風が少女を旅へ促す。
あらゆる社会的な制約からの脱出と解放… 本作を観てオレがジュール・ヴェルヌの小説を連想してしまうのは、必ずしもこの映画が「驚異の旅」を描いているからだけではない。まずこの解放の感覚、そして知恵と勇気を尽くす旅、その向こう側で世界を発見し人生を獲得する、これらの感覚すべてがヴェルヌそのものだからなんだ。
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