[コメント] 幸福路のチー(2017/台湾)
「永遠の幸福などあり得ない」という祖母の教えは、諦念が生み出した逃げの言葉ではないだろう。常に勝利し続ける挑戦の人生など疲れるだけだ。立ち止まって問題を見つめ、考え直すことも必要なシチュエーションもある。そんな人生でも他者に恥じねばならぬいわれはない。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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単なる昔語りのお伽話にならない今作は、その内容に台湾現代史を充分過ぎる程はらんでいる。軍政の崩壊、テロリズムの執拗な実践、学生運動の台頭、果ては日本アニメの流行まで。それらは嫌味なく少女の家族のリアルを彩っている。そして登場人物の幸福とも不幸とも言い尽くせない歴史の波瀾万丈ぶり。…そんなこともあって、海外で仕事を請け負い現地人との結婚までを経験したヒロインの人生描写にも嘘が感じられない。
どこか『おもひでぽろぽろ』を思い起こさせられる物語だが、高畑作品との相違点はヒロインが「いつかどこかの」女子ではない特異性もある点だ。ただし、激動の時代の渦中に投げ込まれたヒロインでありながら感情移入を容易なものとする意外な普遍性こそが肝であり、そこに演出の非凡な創り込みは認められるだろう。平和と自由を貪って生きることがない多くの国々の人々の心こそを揺さぶれるのなら、より今世界で観る機会を与えられるべきアニメーションと呼べるかもしれない。少女の細やかな心情を描く作品の必要性を否定する気持ちは毛頭ないが、それだけに片付けられないサムシングを添えられた作品であることへの賛意である。
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