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[コメント] キャッツ(2019/英=米)

巷間言われているほどには酷い映画ではなかった。せいぜい『ラ・ラ・ランド』や『レ・ミゼラブル』程度のダメさ。単につまらないだけで我慢はできる。しかしこの映画を台無しにしている決定的な点が一つ。それは「指」だ。猫を猫たらしめる重要な要素である肉球が、まるで腸内の寄生虫のごとき生っ白くウネウネと動く「指」というものになったとたん、猫であるはずのそれは気味の悪い何かに変貌してしまうのだ。
月魚

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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劇中、「祈ってて」という意味で「Cross the fingers(指をクロスして)」の代わりに「Cross the paw(肉球をクロスして)」と何度か口にされるように、指ではなく肉球であるのが猫なのに、役者が平気で指を動かすのだ。舞台では手がアップにならないから気にならないのかもしれないのだけど、映画ではこれははかなりのダメージ。足の指もしかり。『銀河鉄道の夜』のますむらひろしのデザインを少しは見習って欲しかった。そういう意味で、(おそらくそれを意識して)ほとんどの場面で指を折りたたんでいたジュディ・デンチと毛糸の手袋で指を隠していたイアン・マッケランだけがちゃんと老猫に見えたのもむべなるかな。

他にもダメポイントはあって、その一つは監督であるトム・フーパーの肉体とスピードに対する無神経さ。ダンスシーンがまるで肉体賛歌になっていない。そのせいで若さと老いのコントラストも、そこから導き出されるはずの本来この物語に横溢しているべき死のにおいも、それを経てこそのカタルシスになるはずの昇天シーンも、何もかもがスカスカになってます。これに加えて、舞台ならそれなりにみっちりして見える群舞シーンが、(現実世界の無限の広がりを裏に持っている映画世界では)決定的に猫密度が薄いせいで眼福とは程遠いものに。構図や画面に盛り込む情報の取捨選択でセンスを見せなきゃならない映像というメディアで、雑な舞台中継ごとき場面を延々と繋ぐという、そのやり方に問題があるのかもですね。

それにしてもジュディ・デンチ、うちで猫を飼うならジュディ・デンチって名付けることに決めちゃうくらいに素晴らしかった。それだけでもまあ損した気はしないかな。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)水那岐[*] けにろん[*] サイモン64

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