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[コメント] 宇宙でいちばんあかるい屋根(2020/日)

改めて桃井かおりの凄さを思い知る。この「血の通ったフィクショナルな老婆」という例を見ない存在の大きさはなんだろうか。そして、カメラマンの手腕の確かさもまた特記に値する。
水那岐

日本のファンタジーの最高位に位置づけられるような大層な作品ではないが、ところどころに愛すべき仕掛けがあり瞠目させられる。

例えば、各シーンを締めくくるキャラクターの背後を撮った1シーンで、監督は沈黙をもってキャラからカメラを後ずさりさせる。これが雄弁なのだ。人物はモノローグすらもそこで発しないが、後ずさりは全ての集約として、まるでナレーションのように語り出し、しかも姦しさを感じさせないのだ。

それは場合によっては詩情を帯びる。ヒロインが「星婆」に出会う屋上よりの俯瞰はあきらかに人工の匂いに満ちているが、これに桃井婆さんの出鱈目な存在がポエジーすらも纏うカタチで馴染むのだ。大体、このリアリティのない婆さんの存在感は凄い。他の誰かなら確実に浮くこの存在(なにせ夜空を飛ぶのだ)を演じられるのは彼女しかいないだろう。この女優を得て、この生ぬるい童話は血肉を纏えたといっていいだろう。

末筆ながら、もちろんこの話が十分に練られていたことからの賜物ではあるのだが。少なくとも削っていいキャラはこの話からは最初から存在しない。この骨組みの確かさは褒めておかねばいけない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*] セント[*]

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