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[コメント] ブルータル・ジャスティス(2018/米=カナダ)

Stormfrontや8kunで気炎を吐くような保守反動の金気臭さ*は薬にもならないが、ネオナチご贔屓のブラックメタルよりもむしろ正統派へービーメタル寄りのズッシリとした挙措動作のリズムと赤剥けの暴力の恐ろしいほどの切れ味は、結構なトラウマもの。前2作のこじれたバロック趣味も悪くはないが、絶賛もしない人間にとって**、今回のtrollらしいシニシズムの計算づくのドライさは好感。悪意に満ちた不意打ちの演出も磨きがかかる
袋のうさぎ

なにげにドイツ系の姓をもつこの人。 容貌的に、self-hating-jewの疑いも無きにしもあらず。

すっかり時代の波に置いて行かれてOki doki Boomerなイーストウッド、還暦近くなって角が取れるどころか輪をかけて元祖インセルのえぐ味を増したタランティーノが、物事の理解の限界を押し広げようとする多感な年頃に、《21世紀食人族》**(怖いもの見たさで、ググるのはやめておいたほうがいいかもしれない・・・)に五感の急襲を受けると、こうなる感が芬芬する。

処女作のトマホーク股裂きの刑や、達磨・三重の闇の出産マシーンなんて、その最たるリアクション=表現ではないのか。

ソフォモア作に続き、ホロコースト生存者のように枯瘦したヒロインが、女性に対する理不尽な暴力の特権的な対象になるというのも、意味深長である。 前作でも歪曲された911ネタを挟んでたし(なぜかジハード主義者と麻薬カルテルが同一視されてる!)、どうやら袖を分かつ気もなさそうなwetback-phobiaは、アン・コールターなんかの極右のマドンナの例に違わず、抽象的なレベルでのGrand remplacement不安というより、より臓腑的な恐怖に根差してるような気もする。

まあ、無理もないか。

日々、原始のトンネルを抜けて、難民キャラバンを盾にした《サタンの軍勢》が、彼岸と此岸の間を自由に往還してるとなれば(そしてネット上に氾濫してるおぞましいイメージ!)、血筋的に原理主義者の気がなくても、憎悪でも怨恨でも欲求不満で被害妄想でも、売りつけられるものは何でもたたき売りして、ゲーテッドコミュニティ/もしくはマシフ・サントラルあたりの核シェルターに籠城したくなるものなのかもしれない。

8.5/10

*ザラーの全作品を支援してきたダラス・ソニアは、どうやらセクハラ騒ぎが原因でハリウッドでキャンセルされてしまったようで、これからは悪名高いアメリカ極右のメディア集団DAILY WIREで積極的に映画製作していくと喧伝している(2022年)。DAILY WIREといえば、2020年と2023年のアカデミー作品賞受賞作を、アジア人主体だからという人種主義的な理由で、罵倒するような連中(他にも、LGBTやコミュニズムなど、保守コメンテーターとして気に喰わない理由を上げているが)。DAILY WIREと協同するに当たって、ソニアは 「Wokisim」に乗っ取られたハリウッドに対抗して、60〜70年代のニューハリウッドのような右翼のカウンターカルチャーの運動を牽引していくと豪語している。ざっと見ると、ヴィンセント・ギャロやジーナ・カラーノ、ジェームズ・フランコなど同様にキャンセルされた著名人が関わっているよう。ソニアにとって不幸なのは、虎の子のザラーのほかに、なかなか彼と政治信条面で共振してくれるような優秀な人材に恵まれないこと。その点、『Terror on the Prairie』『Run Hide Fight』は、格好の試金石になるはずだったが、両作の出来を見る限り、前途は険しそう。トミー・ウィゾー的なものを楽しめる人は、それなりのメリットを見い出せるかもしれないが...。特に『Terror..』は、ザラーとの成功で味をしめたソニアの肝入りか、見るからにザラーの作風を模倣しようとしているのだが、才能の差は覆いようがなく、オリジナルの『サイコ』と98年版のリメイクぐらいの違いがある....足りないのはvision、conviction、passion...映画作りの難しさを痛感するという意味で、ザラー作品とそのエピゴーネンを見比べてみるのも悪くないかもしれない。

**とはいえ、ザラーみたいなのは比類がないので、中毒性があるのも事実。何だかんだ言って、何度も見返してしまうだけのインパクトがある。最初の2作から滲み出てるきな臭さがどこから来るのかといえば、おそらく非白人の戯画がカジュアルな人種偏見に安んじでおり(これをレイシズムとは言わない。このような戯画は白人の側からにしろ有色人種の側からにしろ頻繁に耳にするし、自分もむしゃくしゃすることがあると、同じようなネガティブな感情を特定の民族に対して抱くことがある。例えば、機会があればジャパングリッシュの滑稽さを自作の中で嬉々として誇張するPTAが、日本人に対してレイシストだとは誰も思わないだろう...)、熟慮や内省の跡が見られないからだろう。先住民にしろラティーノにしろアジア系にしろ、ネガティブな一面ばかりを強調して声なき者の固有性を切り捨てるのはストーリーテラーとして勇敢な行為とは言えない。他者を怪物性ばかりに還元するのは、宮崎駿が指摘したようにトールキンが百年前にやったことの無批判な繰り返しでしかない。

*** ここ数年で愈々末法末世的な鬼畜ぶりを見せつけるようになったメヒコ発の見せしめ動画だが、もとはといえば、その仕掛人が、生粋の原住民でなく、タランティーノ門下生世代のテキサス人らしい事実は、いくら強調してもし過ぎることはない。これはモンテレイ出身の親友がソースの都市伝説だが、その門下生?の一人の代表作である『ホステル』デュオロジイも、シカリオの教科書として尽きることのない霊感の源泉になってるそうである。例の火炎放射ネタが出回るのも、あるいは時間の問題かもしれない...

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ゑぎ[*] DSCH[*]

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