[コメント] アメリカン・ユートピア(2020/米)
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…と本当は言いたいところだけど、そこはファンだからそう思うので公平な判断はできない。ただ「ストップ…」同様、ここには控えめに言っても音楽とダンス(身体を動かすという広義の意味で)のもっているプリミティブな喜びがあり、初見の人でもそうなる可能性はあると思う。それはバーンやトーキングヘッズの音楽的嗜好性にアフリカン・ビートがあることは大きな理由の一つだ。
ドラムも含め楽器は全てノンケーブルで、多国籍な12人のミュージシャンたちは舞台の上を自由に運動可能というスタイル。これが思った以上に楽しい。ちょっと音楽的な話にそれちゃうけど、おそらく楽器の始まりは声を除けば打楽器だと思う。何かを叩いて楽しんだ。ドラムスが全員動きながら何かを叩く様子がとにかく楽しそうなのである。一人でコントロールするために足を使う必要が生じ、それによって座ることを余儀なくされた打楽器奏者たちがダンサーやギタリストと同じように動き回る。そのことがこれだけ楽しいことになるとは。そのことでプリミティブな躍動と楽しさに満ちているという印象を受けたのだろう。67歳にしてこんな見たこともないエンターテイメントを作っちゃうデヴィッド・バーンは老いないなぁと思った。
パフォーマンスの中に、アメリカのさまざまな社会問題をユーモラスにポジティブに問いかける、ショーとしての内容の濃さと盛り上がるアメリカの観客たちの様子がとってもうらやましい(やっぱりトーキング・ヘッズの曲が一番盛り上がるわけだが)。ユートピアとは? それは他の人間性とつながることだ、というメッセージもよかった。多様性を好まない人も多いけど、そういう人たちは「どこにひとつにまとまるべき」と思うんだろ? そこは人によって多様だったりして笑。もし人類がどこか一つにまとまるとしたら、それはすべての人類の発祥の地アフリカだろうな、とか、この音楽を聴いて思ってしまった。
最後に映像作品としてのコメント(<おいおい)。YOU TUBEなどにあがっている楽曲ごとのライブ映像と比較するとよくわかるのだが、端的にいって映画のほうが生のライブよりよかったのではないかと思わせる。ミュージシャンたちは気ままに動き回るのではなく、きちっと演出にそったフォーメーションで動くのだが、カメラはそこを十分わかったカットで撮影している。時にステージ上の演者に接近したカメラアングルがあるが、他のカットで撮影クルーが映りこんだりしない。そこはただのライブ映像ではない、ちみつなコンテが想像される。もっとも面白い視点でそのライブを見ることができるという点は、実際のライブより映像が優れた点だが、それがある程度しか動けない通常のロックやポップスの場合、それほどアングルの切り替えにプライオリティは感じないだろう。演者のアップなど映像ならではの価値よりも、やはりその場の臨場感に勝るものはない、というのがふつうのライブだと思う。しかしこのスタイルのライブでは、その自由視点がひょっとしたら臨場感を上回っているかも知れない。なので、映画として優れていると思うのだ。
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