[コメント] スウィート・シング(2020/米)
世間が線を引く幸福の基準からすれば、この姉弟の境遇は合格点にはほど遠いが、悲しさは伝わってこない。といってアレクサンドル・ロックウェルは「そこにある問題」から目を背けている分けではない。向けられる視線の優しが悲しさを上回っているのだと思う。
この姉弟(ラナ・ロックウェル/ニコ・ロックウェル)と父親(ウィル・パットン)の信頼関係は、とても正直で嘘がなく、逆に悲しくなるほど優しいのだ。クリスマスの夜の、ささやかだが素直な喜びに満ちた(まるで紙屑に見えるラッピングのプレゼント!)シーンで、思わず目頭が熱くなってしまった。
そして、しっかり者のお姉さんラナ・ロックウェルがみせる、子供の無邪気さと大人のチャーミングさが入り混じった、はにかみ顔や笑顔や憂慮顔が魅力的だ。基本はモノクロ映像ながら、彼女の“意識”としてはさみ込まれるカラーシーンが絶品。その神々しさもまた“悲しみ”の救済として印象的だ。
同世代の少年(ジャバリ・ワトキンズ)との逃避行で三人は「アウトロー」と自称する。法治の外側にいる者、すなわち社会の庇護下から外れつつあるこの子供たちはまさに「アウトロー」なのだ。救いは、この子供たちが「アウトロー」を解放として謳歌すること。そして、たとえ“思わぬ出来事”が起きたとしても、彼らが優しを失わないことだ。
近年、格差や貧困、差別や人権にまつわる厳しい映画ばかり観ている気がする。それはそれで意味のあることだと思う。でもやっぱり、本当はこんな映画が観たかったのです。
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