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[コメント] スウィート・シング(2020/米)

モノクロ、アイリスインのオープニング。本作も歩く足から始まる映画の系譜だ。全編基調はモノクロ。一部カラー画面がとても効果的に挿入される。それは、概ね規則性がある(例えば、ビリー・ホリデイの幻想や水中カットが、多くはカラーの画面)。
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 また、中盤までは、アイリスアウト、アイリスインを何度も使う。これにより、古めかしいノスタルジックな感覚、あるいはインディペンデントな雰囲気が出ている。主人公は子供二人。お姉さんのビリーと弟のニコ。二人ともカーリーヘア。特にビリーの髪型はゴージャスで、とても目につく。冒頭はクリスマスのシーンだ。本作はクリスマスから始まる映画の系譜にも加わる。

 お父さんはウィル・パットンが演じている。定職につかず、サンタに扮する等の日雇い仕事をし、いつも飲んだくれている。彼が、酔っぱらってビリーの髪を切るシーンは、確かにDV、もしくはハラスメントで、悲しいシーンなのだが、ビリーがその魅力的な髪型のせいで、男の子たちから声をかけられるのを目撃したから、ひいては娘を不良たちから守るためなのだろうと思わせる。

 本作は、序盤のお父さんとの日常生活の部分、中盤のお母さんとそのボーイフレンドのボーとの、浜辺の家での共同生活部分、そして、この浜辺の家を出て、友達のマリクと3人でのアウトローとしての逃亡生活、この3つのパートに分けることができると思うが、特に後半の逃亡パートは、ロードムービーらしさも出て、ヒリヒリするような緊張感の中にも、自由の愉しさが溢れている。このリズムを壊すのは避けたのだろう、後半はアイリスも控えられるのだ。

 そして、エンディングの展開は、ビターでもあり、スウィートでもあるという、とても懐深いものだ。とにかく全編通じて子供たちの振る舞いは自然で瑞々しく、活気に満ちており、撮影も編集も、この手の演出(フリースタイルというか、均衡からの逸脱というか)としては間然するところのないぐらい、舌を巻くようなテクニックだと思う。あくまで小品、という趣きなので、凄い傑作、とまでは云わないが、メチャクチャ愛らしい映画だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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