『ウエスト・サイド物語』との比較はしません。この映画だけの素直な感想として、映画が若々しくない。なんだか、若い二人の情熱的な恋物語というよりも、リタ・モレノ婆さんの「この街を長いこと見てきたんだよねぇ」話に見えてしまう。いろいろあったねぇ、思えば遠くへ来たもんだ（しみじみ）みたいな。リタ・モレノ90歳だって。元気だねえ、見えないねえ。エグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねてるんですね。スピルバーグは『オールウェイズ』でオードリー・ヘップバーンを引っ張り出して恥かかせた（？）という前科があるけどねえ。でも、カメオ出演くらいでよかったんじゃない？映画の印象変わっちゃうし。スピルバーグももう75歳だって。そもそも今まで一度でもラブストーリーを撮ったことあったっけ？ミュージカル初挑戦以前に、初々しいラブロマンスを75歳初挑戦で撮れると思う？

いや、そもそもスピルバーグの主眼はラブストーリーじゃなかったんだな、きっと。製作意図はイーストウッド御大『クライ・マッチョ』と同じ。国境に壁を作って移民を排斥するとか言い出した自国の（前）トップに対する反駁。強いて言えば、若者の悲恋がストーリーの中心にあることで、「こんな分断の世界は若者のためにならない」という良識派の大人の主張は描けたように思いますが。

しかし、元は「ロミジュリをリアルタイムのニューヨークに置き換える」という志の1957年のブロードウェイ・ミュージカルなわけで、本気でラブストーリーを撮りたかったら、60年前の翻案の焼き直しではなく、2020年代の「ロミオとジュリエット」を作るべきだったんです。そういった意味では、オージービーフみたいな安くて肉厚な映画を撮るバズ・ラーマン『ロミオ＋ジュリエット』の方が志が高い。それももう四半世紀も昔の映画だけどな。

あと思うんですが、はっきりきっぱり言って、ミュージカル撮るの下手じゃない？

例えば、警察署内のシーン。補導されたサブキャラ達が刑事の真似したり裁判官の真似したりワチャワチャするシーンあるでしょ。ブロードウェイ版ではあるシーンなのかもしれませんが、私の記憶では旧作映画版には無かった。つまりこのシーンは、大仕掛けの舞台演劇によくある「（衣装替え等で）主役を休ませる」ためのシーンだと思うんです。映画としては不要。でもこの映画は、「あの映画のリメイクじゃなくて、本場ブロードウェイの21世紀版映画化なんだ！」という趣旨に意固地になったのかどうか知りませんが、このシーンを残した。その結果（これは一例で全体的にそうなんですが）「映画として無駄が多い」という印象が残ります。

さらにこのシーンで言うと、主役不在の脇役ばかりのシーンだから、観客を飽きさせないように、机とか椅子とか小道具を存分に活かして他にはない面白い演出をしてるんですね。おそらく舞台で見たら面白かったでしょう。でも映画じゃ無駄にカメラが動くんだ。ヤヌス・カミンスキーがクレーンで遊んでんじゃないかってくらい動く。もっとしっかり「小道具パフォーマンス」を見せればいいのに、カメラが無駄な演出をしようとするのがミュージカルにとって邪魔でしょうがない。

さらに言いますけどね、このシーンの最後、戻ってきた刑事が散らかった室内を見て呆然としますね。この映画、こうしたことをちょいちょいやって観客を現実に引き戻すんですよ。深夜のデパートでの清掃。ひとしきり歌って踊って、最後に「はいはい、仕事仕事」と現実に戻る。圧巻の「アメリカ」のシーンだって、歌い踊る集団を一般人が驚いて眺めるカットを挿入する。それじゃ、ミュージカルじゃなくてフラッシュモブだよ。なに？ギャグのつもりなの？だとしたら『1941』より笑えない（＜そんなこともない）。この「アメリカ」のシーンがいい例で、本来我々観客（の心）は、あのダンスの輪の中にいなきゃいけないんです。ところがスピルバーグの演出は、踊る集団を客観視する側に観客を置いてしまう。だからこの映画、ずっと他人事に感じるんです。

まあ、仕方がないか。そもそも老人にとってラブストーリーが他人事なんだから。

余談

レナード・バーンスタインの音楽は大変素晴らしいのですが、みんな気軽に「バーンスタイン」「バーンスタイン」言いますけどね、映画音楽で「バーンスタイン」言うたらエルマー・バーンスタインのことですからねっ！

余談２

主役の男が途中からティモンディ高岸に見えてきちゃって。

(2022.02.14 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)