[コメント] 犬王(2021/日)
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反動として「ロック」の表現でなければならなかったのは理解できるのだが、表現の抹殺という義満の身振りに対置される民衆の熱狂みたいなものが回収されないので、何だかロックが無力なもののように感じられてしまう。そういう苦味が目指されるべきものだったのだろうか。もう歴史のifで、犬王、友魚の文字通り最期の舞台、反動を貫き通して熱狂のままに反動を自覚しつつその場で自ら首を差し出して斬首、そこから民衆爆発で革命、みたいなところに行ってしまってよかったんではないか。結果的に袂を分つことになってしまって、数世紀を経ての和解、それはそれでとは思うのだが、呪いが祓われた後に敢えて醜く(時代のピエロとして)描かれたと思われる犬王の風貌が、数世紀後もそのままというのも違和感。真の「呪い」ってこれだったんじゃないのか。スタイルが先行するばかりで、何か違う、見落としてないか、という感想で終始しました。別に能が好きなわけではないのだが、この作りだと世阿弥がダシにされるのもよろしいのですかと思う。まあ原作読んでないので大きなこと言えないのですが。亡霊と記憶、そして歴史というテーマの扱いに大きな異議はありません。
そして、私も、うん、『どろろ』ですね、と思いましたが、レベル的に、はっきり言って比較になりません。情念の密度で言えば、『どろろ』のコアを抜いて百倍希釈したくらいの感覚であり、当然ながら、『どろろ』が圧倒的に上です。父との直接対決が、ないのか、避けられているのか分かりません。「さだめ」とか自分の身体を売った親父がどうしたとか関係ねえ、アイツは蚊帳の外っていう方向性なのであればそれは脱構築的なものとして了解しますし、そのように描かれていると思しき箇所もないではありません(これは復讐譚ではない)。その点、序盤の、異形のままに縦横無尽に街を駆けるシーンが最も感動的だったと思います。しかし、その境地に至るまでの描き込みや情念の誘導が足りなくありませんか。しかし、これ以上語るエネルギーは取り敢えず今の私にはありませんので、この辺で失礼します。
アヴちゃんのほかに良かったところを一つ。柄本佑です。ふにゃふにゃとした捉えどころのなさに見え隠れする酷薄さがよかったですね、、、
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