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[コメント] オフィサー・アンド・スパイ(2019/仏=伊)

フランス本国版の原題は「私は告発する」。これはアベル・ガンスの『戦争と平和』(1919)と同じものだ。奇しくもガンスから百年の時を経て同一題名で作られた映画ということになる。
ゑぎ

 ガンス版は、戦争という人類の絶対的な愚行を告発する、というテーマを扱っていたのに対して、本作は、ドレフュス事件における軍隊の不正を告発する、という限定的な題材を扱っている。というか、ドレフュス事件の際に、エミール・ゾラが仏大統領あてに書いた、有名な新聞記事(公開状)のタイトルが、本作の題名として採用されているのだが、しかし、本作も、この事件を象徴として敷衍し、社会一般における正義と、正義を貫く信念の尊さを訴えかけている、と云うべきだろう(それは、ユダヤ人差別の社会的共通意識が痛烈に批判されて描かれている部分も同じだろう)。

 1895年。陸軍施設の広大な敷地。そのパンニングショット。ドレフュスが軍籍を剥奪されるシーンから始まる。このオープニングは凄いロングショットでもある。背景の建物や沢山の軍人たちはCGだろうか。皆の前で、軍装を解かれ、サーベルは叩き折られる。正直、この冒頭が一番良いシーンだと思った。以降これを超えるほど、驚かされるシーンが出てこなかったのは寂しいが、ただし、演出はラストまで緩まず見せていると思う。

 例えば、画面の特徴で一番目に留まったのは、ドアや扉の使い方だ。ドアを開け、屋内に入るピカール-ジャン・デュジャルダンを、アクション繋ぎで部屋の中に置かれたカメラからのショットに繋ぐ、といったキメ細かな演出が頻出する。特に前半は何度も何度もやるのだ。これが良いリズムを生んでいると思う。さらに、建物のドアだけでなく、鍵付き戸棚や金庫の扉も印象的に使われている。また、本作はドアの映画であると共に、紙片の映画だと云えるだろう。ただし、こちらは、その触感まで描かれている場面は僅かしかなく、そこは惜しいところだ。

 尚、相変わらずエマニュエル・セニエが良い役、ピカールの恋人として出て来るが、ピクニックシーンでの登場から、目が釘付けになるぐらい貫禄がある。あと、メルヴィル・プポーがゾラ裁判の弁護士役として後半になって登場するが、こちらも良い役だ。ドレフュスを演じるルイ・ガレルは、ヘアメイクで彼とは思えない。出番は思ったより多くないが、ピカールに抗議しに来る場面を反復する(序盤と終盤で2回抗議する)のがいい。

#ちなみに、「私は告発す」という意の原題を持つ映画は他にも複数ある。中では、ホセ・ファーラーが監督主演(彼がドレフュス役)した作品(1958年MGM製)を見てみたい。

(評価:★3)

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