[コメント] リコリス・ピザ(2021/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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天才とキ○ガイ紙一重の人PTAがまともな「青春恋愛映画」なんか撮るはずがない。
この映画、ワンカット長回しカメラ移動が多いんですが、シンプルな「疾走=カメラ横移動」は意外と少なく、私の記憶では、クライマックスと「誤認逮捕のアホなシーン」「ショーン・ペンのバイクのアホなシーン」くらい(後者2つのアホなシーンはクライマックスでも挿入されますね)。それ以外の場面では、カメラや人がゴニョゴニョウロチョロ曲がるんです。最初の「口説きシーン」なんか複雑なワンカット長回しをしてますし、「世界の終わりだー」とか言いながらガソリンを求める自動車の長蛇の列を縫っていく際は、人があっち行ったりこっち来たりしている。
私が推測するに、恋愛と一緒なんです。
ゴニョゴニョウロチョロ複雑で面倒な策を弄しているうちはダメで、素直にシンプルに一直線に向かって初めて恋愛は成就するんです。どちらか一方だけが突っ走ってもダメで、双方のタイミングが合って初めて成就するんです。この映画のまともな「青春恋愛映画」部分は、このカメラワークだけ。だってPTA、頭オカシイんだから。
頭オカシイPTAは「『初体験 リッジモンド・ハイ』をやりたかった」と言ってるとかいないとか。ええええ、フィービー・ケイツおっぱいポロンでお馴染みみんな大好きなあの映画ですよ。本作の設定は1973年ですが、舞台は本作も『初体験 リッジモンド・ハイ』も同じロサンゼルス、サンフェルナンド・バレー。そしてショーン・ペン。『初体験 リッジモンド・ハイ』だと考えると全てが納得できる。発情期の男子高校生の色恋沙汰をご機嫌な音楽に乗せて描く映画。
ちなみにタイトルの『リコリス・ピザ』 とは、実在した(今でもする?)レコードチェーン店の名前だそうです。日本だったら、さしずめ新星堂。リコリスとは世界一不味いと噂の北欧の菓子だそうで、レコードの色を「リコリス」、形を「ピザ」に見立て、しかも略して「LP」になるという洒落たネーミング。ネットは何でも調べられてありがたいね。ついでにこれもネット情報だけど、レコード店「リコリス・ピザ」が『初体験 リッジモンド・ハイ』のオープニングに映ってるんですって。
でもなんで「1973年」なんだろう?80年代でもいいのに。PTAも3歳くらいだから思い入れもないだろうに。そういった意味では、ジョージ・ルーカスが自身の高校時代を重ねて1962年を舞台にした『アメリカン・グラフィティ』とはわけが違う。あれ?『アメリカン・グラフィティ』は1973年製作だ。
もちろん皮膚感覚では理解できないんですが、私の乏しい知識で思うに、1973年のアメリカって結構難しい時代だったと思うんです。
まず、「オイルショック」。劇中でも言うように、これが「世界の終わり」感と重なったんですね。73年早々に、アメリカはベトナム戦争から撤退しています(ベトナム戦争自体は75年まで継続する)。アメリカが初めて「負けた」ことを国民が実感するのです。劇中でも無神論者の少年の口から「ベトナム…」と出てきます。少しずつ「強いアメリカ」が崩れ始めたことを国民が実感し始めた時期。国が「不安」に覆われ始めた時代だからでしょう、70年代は『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)をはじめ数多くの「パニック映画」が作られます。
ベトナム戦争前60年代の「古き良きアメリカ」の理想は、50年代のジョン・ウェインに代表される「強いアメリカ」でした。おそらく、その「ひと世代前」に憧れる「時代遅れ」の親父たちが、ショーン・ペン演じる大物俳優(ウィリアム・ホールデンがモデルらしい)やその仲間のトム・ウェイツが演じる映画監督(サム・ペキンパーがモデルらしい)なんだと思うんです。PTAは、ただ面白がって変なオッサンを出しているわけではなくて、いや、面白がってるんだろうけど、時代を描写する道具として使っているのだと思います。
高校に写真撮影に来ていた助手に恋する設定ってのは、日本で言うなら、修学旅行のバスガイドに恋するようなもんなのかな?それはさておき、冒頭の「口説きシーン」の直後、カメラマンがアラナのお尻をポンと叩き(触り)ます。今だったらアウトですが、当時はごく当たり前の「スキンシップ」。ここから、「紙一重」PTAは、ユダヤだアジアだゲイだバーブラ・ストライサンドだと、いろんな問題を放り込んできます。バーブラ・ストライサンド?
てゆーかさ、ジョン・ピータースとバーブラ・ストライサンドって、『スター誕生』の宣伝で来日してんのね。ブラッドリー・クーパーを起用したのは、たぶん『アリー/ スター誕生』ネタ。
選挙事務所に不審な男がやってきます。「選挙事務所と言えば『タクシードライバー』だよねっ!」ってのも分かりますが、少し唐突じゃありませんか?ちなみに、ウォーターゲート事件がこの頃なんです。私はそれじゃないかと思うんですよね。そうだ『大統領の陰謀』を観よう。
そういうわけで、1973年は、ニクソン・ショックだオイル・ショックだベトナム敗戦だ、ドル切り下げだ、ウォーターゲート事件だと、アメリカが方向性を見失う時期なんです。国も人も進むべき道を見失った時代。唯一明るい話題は、ピンボールが解禁になったことくらい。てゆーか、ピンボールが禁止されていたとは知らなかった。言われてみれば、あちこちに玉が飛んでいくピンボールみたいな映画だな。村上春樹の小説「1973年のピンボール」は関係なさそうだけど。
余談
HAIMじゃねーか。男の子はザ・マスターの息子だってよ。
余談2(追記)
確証持てなかったんで書かなかったんですが、逮捕シーンのドンドコドンドコってBGM、チコ・ハミルトンじゃないかなぁと思って見てたんですが、サントラ盤調べたら当たってました。この曲、『真夏の夜のジャズ』でチコ・ハミルトンが演奏してる姿が見られます。
(2022.07.10 吉祥寺オデヲンにて鑑賞)
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