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[コメント] さかなのこ(2022/日)

見る前は、のんさかなクンの半生を演じる伝記ドラマかと思っていたのだが、そうではなく、「のん」が演じているのは、あくまでも「ミー坊」というキャラクターだ。
ゑぎ

 ミー坊は、生来の嗜好に加え、小学校時代に「さかなクン」演じるギョギョおじさんに出会ったことや、ギョギョおじさんから引き継いだ魔法の帽子(さかなクンのハコフグ帽子のフェイク?)も手伝って、おさかな博士を目指す、というプロットが繰り広げられる。一種のSFのようなファンタジーと云ってもいいかも知れない。またそれは、小学校〜高校時代の良き友人たちとの交友関係や、何よりも母親−井川遥の揺るぎない寛容と肯定の描写によって成り立っている。

 実は、のんにリレーしてから(高校時代以降)も面白いのだが、小学校時代の描写がとても良いと思った。ミー坊だけでなく、ヒヨとモモ含めて、子役へのディレクションが実に行き届いている。また、学校の教室でのミー坊のショットもいいが、ギョギョおじさんとの出会いの場面の空間造型が見事だ。川に橋が二ヶ所、すぐ近くに架かっている、というロケ場所を上手く活かしている。それに、海水浴の場面における大ダコのクダリが、全編でも出色の出来だと思う。お父さん−三宅弘城が唐突にシメ始めるのがコントみたい。ミー坊がさほど嘆かずに、屈託なく炙った足を食べるのもいい。

 また、このアンビバレントは一貫している。「さかなさん」のことを可愛い可愛いと云いながら、殺生も食することにも何の逡巡、後ろめたさもない、という潔さが徹底されているのだ。のんが総長−磯村勇斗の前で、アジをシメる場面が良い例だろう。殺すのではなく、シメると言い換え、印象操作をするのだが、これは、ワザと観客に複雑な思いを抱かせながら、ギャグとして提示しているのだと見た。

 あと、本作にはリレーキャストの都合もあり、何度か時空を飛ばす演出があるけれど、その表現が全て凝っていて、見応えがあった。道路に落ちているハコフグ帽子にカメラがパンし、小学時代から高校時代に時間が飛んだり、自宅の母子(井川とのん)の場面で右にパンしながら、カメラがバルコニーに移動すると、なぜか母の井川がいる、左にパンして部屋に戻ると、のんはいない、といった見せ方だ。

 全般的な感想として、本作はとても良い映画だと思っているが、最後に、ちょっと気になったことも書いておく。高校生のヒヨ−柳楽優弥とモミ−岡山天音が加わった擬闘シーンの緩さはいいけれど、カブトガニが横で歩いているのは気になった。それと、大人になったモモ−夏帆との再会ぐらいから、変な感じになる。アジの骨茶しかない、というのには笑ったが。大人になったヒヨ−柳楽のレストランでのデートに加わるシーンも不思議なシーンだ。これらは、主人公のジェンダーについて、複雑な感興を呼ぶように仕掛けられた、トラップのような演出だろう。尚、冒頭の「男か女かはどっちでもいい」という字幕は、映画としては野暮ったいと思った(映画演劇の世界では、女優が男役をやる、あるいはその逆の例は数多ある)。云わずもがな、ではないか。

#補遺。全体にヌケの悪い画面だったということも明記しておきたい。多分ワザとやっているのだろうと思うのだが、どうしてこういう光の扱いを好むのだろう。私はもっと綺麗な画面で見たいとずっと思いながら見た(原版からの問題なのか、上映施設の問題なのかも私にはよく分からないのだが)。とりあえず、このヌケの悪さの点は、採点には加味していません。

#補遺への追記。遅ればせながら、全編16ミリで撮影されていた、ということを知りました。「レトロポップ」らしいです(宣伝部の言葉?)。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)小紫 けにろん[*] [*] さいもん

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