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[コメント] X エックス(2022/米)

腐っても、狂っても、愛。グロテスク。それでも、だからこそ、愛。主線は古典的スラッシャーだが、「B級」というある種の安全牌に甘えない創意と、意外なことに、(不快だが)切ない余韻がある。不穏な俯瞰視点やロングショットの緊張感、監督自ら手がける編集の独創性も見もの。そしてミア・ゴスのポテンシャルの高さ。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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何ヶ所か、レコードの針が飛んだり、壊れたビデオテープを再生しているような、痙攣的に短いスパンの時系列が前後して反復するカッティングがある。単純にショック演出に一役買っているところもあるのだが、シュールで神経を逆撫でするような不快があり、他所ではあまりこういうカッティングを見たことがない。これはこの監督の独創によるものと思う(多分)。これが結構怖い。

老いによる若さへの復讐というテーマの切り取り方は過不足ない。舞台は1979年、アメリカの片田舎だが、VHSの誕生によりポルノが爆発的に普及された時代とされている(「ポルノの歴史」に関するwiki)。若さと性の商品化の、一つの象徴的な時代ということだ。露出度の高さもあって、相応しい時代設定と言えるだろう。ハワード(爺ちゃん)は二つの大戦に従軍して生き残ったという設定だが、かりそめにも命を賭して尽くした国がこんなことになった、その象徴であるところの若者達への復讐という側面もあるだろう。黒人俳優のジャクソンはベトナムに二度従軍したという設定が並置されており、ハワードが僅かに親近感を見せるようなシーンもあるが、結局は人生を犠牲にした自分と対照的な生(性)への嫉妬の餌食になってしまう。

終盤の老夫婦のベッドシーンは大変不快ではあるが、「腐っても、狂っても、愛。グロテスク。それでも、だからこそ、愛」という他者の理解を拒絶する異様な聖性も伴っていて、なかなか創造できない感情をもたらしている。挿入曲が美しく感傷的ということもあり、見た目に反して、流れる感情には切なさが多くを占める。

大変恥ずかしいことに、主人公マキシーンとパール(婆ちゃん)がミア・ゴスによる二役と気づいたのはエンドクレジットを観てからなのだが、これを踏まえると、作劇の旨みが深まってくる。劇中劇「農場の娘達」の牛舎でのマキシーンによる絡みのシーンをパールが覗くシーンもそうだが(ここだけ二役と思った)、ラスト、マキシーンは、自らの老いと破滅の予感の象徴であるパールを、トラックで踏み潰し、ドラッグ喰らって夜道を一人走り出す。フロントガラスに吊るされた十字架を前に、「クソな神を讃えよ」と吐き捨てて。このラストの啖呵の振り切れ方は、『グラインドハウス』を思わせた。そのへんのカルチャーへのオマージュもあるのかもしれないが、それはともかく予期しない感動が待っていた、というのが素朴な感想である。続編は期待できるのではないだろうか。

あからさまな『シャイニング』オマージュには少し笑いました。他にもあるのでしょうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)t3b[*] 脚がグンバツの男 kiona

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