[コメント] イニシェリン島の精霊(2022/英)
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2023年ゴールデングローブ賞で作品賞を受賞し、アカデミー賞でもノミネートされている本作。監督は『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーで、作品のテイストとしては好みなんですよね。だから結構期待して見てきました。
うん、良かったです。でも何がって言われると難しいんですよね。筆舌に尽くし難いというか、フィーリングとして好きだったって感じですし。とりあえずやはり同監督なだけに『スリー・ビルボード』と似た匂いは感じましたね。
ストーリーはイニシェリン島というアイルランドの孤島が舞台で、島民みんな顔馴染みのような環境の中、ある日突然仲の良かったコルムがパードリックを避けるようになる。 理由は「お前と話すのは退屈だから。」残りの余生は音楽の創作などにあてたい。不毛な会話で時間を潰したくない。という趣旨。パードリックは理解できず、また元の関係に戻ろうと画策するのだが…という話。
まず驚きなのがその理由ですよね。もう冒頭から突然の拒絶スタートなんですよね。仲良かった頃なんて一度も映されませんし、本音は何かなとか色々考えるんですけど、どうやら建前とかではなくて本音なんですよね。
モーツァルトのくだりがありましたが、優しいだけでは忘れられると。そうではなく、音楽などの形は死んでも残っていくと。だから無駄に過ごしたくないんだと。 まあコルムの言ってる意味はわかるんですけどね、極端なんですよ。たしかに時間を無駄にすることって取り返しが効かないですし、そこへの後悔って自分もわりと共感できる方なので言ってることはわかるんですけど、じゃあそれで完全に断つ必要があるのかというとそれはやっぱり極端で、その選択ってまさに悪ではないけど善でもないんですよね。 そのくせ話しかけたら指切り落としてくれてくれてやる、ってのは極端の極みなわけで、それをやったとて音楽に注げなくなるやん、ってのは矛盾してるだけなんですよね。 ただ、まあそれを実行に移す辺り、猟奇的な感じが凄かったですけどね。うん。
一方でパードリックのあの固執する感じも常軌を逸している感はありましたが、とにかく少しずつ怒りが蓄積していく感じの繊細な演技は素晴らしかったですね。特に特徴的なあの眉毛ですよね。コリン・ファレルのノミネートも納得です。 とりあえず人間は孤独と退屈に押し潰されるとこじれてくるのだろうなとは思いました。
正直レビューするために思い返しても本作のテーマって言語化して表現するのって難しいんですよね。それでも一つはっきりしてるのは内戦がメタファーにはなっていて、これはアイルランドが実際に1920年代に内戦状態だったわけなんですが、それがこの島のすぐ対岸では勃発してるのに島には何の影響も出ていないんですよね。 そんな平和な島かと思いきや、ほんの些細なことで亀裂が入り、関係性が崩れてしまう。まさに二人の関係は内戦そのものなんですよね。 理由はどうあれ友好関係は続けられないことを主張するコルム。距離を取ろうと停戦要請するも、その考えが理解できずに拒否するパードリック。気づくと二人の溝は決定的なものとなり、墓まで続く争いの引き金になってしまう。 コルムの自傷行為宣言は気が狂ってるようにも思えますが、停戦要請をする側として自分の身を削るというのはある意味納得させられました。
前作ではどことなく心地良さの残る余韻を残してくれたマクドナー監督ですが、本作では爽やかに見えて実は重い鉛をぶち込んできましたね。
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