[コメント] エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022/米)
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本年度アカデミー賞最有力候補に挙げられる本作。さらにはA24史上最高のヒット作ということでも話題になりましたね。ただ、設定がマルチバースに関わるとか『スイス・アーミーマン』のダニエルズ監督なのでおバカさが強いとか、とにかく作品賞を獲るにはらしくない作品だとも耳にしたので好奇心強めで鑑賞してきました。
まずもって言えることは、前情報としてはさして間違ってはおらず、マルチバース全開のお下品おバカ映画ではありました。ただ本作を鑑賞するうえでの注意点として、信じられないほどの情報量が詰まった映画です。「え、なんで?」とかを考える暇はなく、与えられた情報を整理するのがやっと、って自分は感じてしまったので、ネタバレを嫌う方もいらっしゃるかもしれませんが、個人的にはある程度予備知識として設定を知っておくと見やすくなるかもしれません。正直私はついていくので必死でしたし、見終えた直後の疲労感が半端なかったです。でも、知ったうえでもう一度見直したら印象もまた変わってくるだろうなとも思いましたので、ここからはネタバレも含んでいきますのでご理解ください。
大前提としてマルチバースというパラレルワールド的な世界が存在するということは、だいぶ浸透しているとは思いますが、本作では主人公ミシェル・ヨー演じるエヴリンの現実には選択しなかったあったかもしれない世界として登場します。だから歌手だったりカンフーをやっていたり、様々な可能性の姿が映されるわけですね。とはいえそんな真面目な世界線だけでなく、おバカ丸出しの世界線なんかもあったりして、この監督ならそれが一つの面白みであると思います。
また、その様々な世界線から力をインストールして戦うという『マトリックス』的設定も面白みの一つ。それが時にはアクションとして発揮され、時にはコメディとして発揮される。特に本作の映像演出に関しては文句なしに楽しめると思うので、バースジャンプが何やら難しく考えすぎちゃわず、シンプルに他世界の力を使って戦うくらいの認識でいれば十分かと思います。
あとはこのバースジャンプをする時の行動が一番何でやねんですよね。「おバカなことをする」ことでそれが可能となるわけですが、まあここに関してはもうそういうものと割り切った方がいいです(笑)恐らくこの監督たちのそもそもの路線としてやりたいことなんだと思いました。
しかし、本作がここまでふざけておきながらアカデミー賞などで注目を集めているのは、本作におけるメッセージ性の部分なんでしょうね。マルチバースがどうとか言って壮大なスケールの話かと思いきや、中身は家族内の衝突ですし、何なら場所すらもほとんど同じ場所のみです。この世界がマルチバースであるということを知っているアルファ・バースとかいう世界の人が夫に憑依してエヴリンに助けを求め、その敵にあたるのがジョブ・トゥパキという娘であって、元の世界では崩壊状態にあった家族が改めてその関係を見つめ直していくというのが根幹にあります。
結局なぜこの世界のエヴリンが選ばれたかといえば、最悪な道を選んでしまった人だから。そりゃ誰しもあの時あの選択をしていたら、と思い返すことはあるし、もしその選択をしていた世界線が成功していたら羨むのは当たり前のこと。最近の『ドクター・ストレンジ』でのスカーレット・ウィッチみたいなもんですよね。でも本作が伝えたいのは、そうではなかったからこそ今がある、ってことだと思います。そしてだからこそ、身近な人に優しくしなければいけない、ということなんだと思います。このテーマって私は『恋はデジャ・ブ』を思い浮かべましたね。あっちはタイムループものですが、根本のテーマは近いものがあるんじゃないですかね。だから作品のテイストとして好き嫌いは別れるかもしれませんが、メッセージ性の部分では万人に受け入れられる普遍的なテーマの作品なんだと思いました。
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