[コメント] 別れる決心(2022/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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だってあなたが「愛している」って言ったからよ、という女。「愛している? 愛しているなんて私がいつ言いました?」と動揺する男の、そんなこと言ったはずがない、慎重に言葉を選んでいたはずだから、というシチュエーションがたまらない。「今度はスマホを見つからないところに捨ててください」これだけでメロドラマファンはごはん3杯はいける、というやつだろう。
「手錠で繋がれた男女」というのは作家だったら一度は扱ってみたいお題なのかも。つまりそれは、運命的、宿命的で、かつ対等に自由を奪い合う、ある意味裸のあなたと私、エロティックな関係だからだろう。護送中の刑事と容疑者の女の、手錠で繋がれた2人がお互いの手を愛おしく重ね合わせるイメージがそもそも最初のアイデアだったとすれば、そのベタな状況に着地させるまでの話の組み立てが、嘘くささやご都合主義的なところがほぼない理想的な出来栄えで、もう激しく頷いてしまうのだった(強いて言えば先述の愛の台詞を都合よく録音していたというところだが、彼女が韓国語がよくわからないため翻訳アプリをよく使っていて、後から韓国語に翻訳して聞かせるなどのために、自分のその時の気持ちなども頻繁に端末に録音していたという習慣を設定することで回避していると思う)。
何がいいといって、一番はパク・ヘイルの顔(表情)だ。もうベテランメロドラマウォッチャーならこの生真面目そうな顔つきだけでフラグが立っているといったところではなかろうか。こういう物語をいかにもこの後やりそうな顔をしていて、この物語に説得力を持たせていると思う。一方でタン・ウェイのファムファタルぶりは、私にはあまりピンとくるものがなかった。こういうのは個人的な異性の好みと関係してくるのかも知れないですね。。
単品の映画よりも配信の韓ドラで膨らませたほうが良かったかも。というのはやはり序盤の、刑事が容疑者に惹かれていくまでの時間の短さを感じるからで、「次第に」というのを描くのが難しい映画の弱点を感じてしまう。たとえばヘジュン刑事が担当していた広域殺人事件の捜査にソレがそれとなく示唆を与える場面があるが、何かそういうちょっとしたことの積み重ね的なものを小出しにして、焦らしていって欲しい気がした。理由もなく唐突に惹かれるのが現実だとしても、そこは前戯みたいなもんだからなぁ。
ゑぎさんの言われているモチーフとか印象的な断片が回収されないのがいい、というのが凄くよくわかるのは、釜山でのスッポン泥棒が夜道をバイクで逃走中に転倒する場面の映像の楽しさで、そのあとヘジュンと相棒のフランキー堺似の女刑事がスッポンを捕まえるのに四苦八苦する場面が、むしろ意味のない場面で欲しかった、ということだ。このスッポンって、ヘジュンの妻が原発の同僚の男と退社してくる場面で手に提げていることで、事後の性的な関係を説明しているのだろうが、逆にこういう説明に鼻白む。映画はどうしても短いから、無駄な枝葉を切り捨てるのがセオリーなのだろうが、タランティーノの脚本によくあるような無駄話の魅力などを知るにつれ、そういったものを切ればいいというものでもないのだな、というのが自分の中での関心事になっている。デートで訪れた寺院も連ドラなら聖地巡礼の対象になるだろう。なぜ単なる背景の絵が訪れたいと思わせる場になるのだろうか。そういうテーマや伏線と無縁のモチーフたちの意味というのは、作品にとってどういう意味があるのか、ひとつは登場人物たちの生活(生きている世界)に現実感を持たせることなのだろうが、こういうものの適度な選択と配置というのは、とても興味深い作劇の技術だと思う。
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