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[コメント] 崖上のスパイ(2021/中国)

実を云うと、ご多分にもれず、私も主に『ワン・セカンド』で「リウの娘」を演じていたリウ・ハオツン目当てで見たということをまず最初に告白しておこう。さて、冒頭は雪降る森林に降下する落下傘の真俯瞰ショット。
ゑぎ

 4つの落下傘がシネスコ画面に広がる良いショットだ。雪の中に降り立ったのは4人の共産党工作員で、張憲臣−チャン・イーと王郁−チン・ハイルーは夫婦、楚良−チュウ・ヤーウェンと小蘭−リウ・ハオツンは恋仲なのか。それぞれ別のペアで2班に分かれて行動する。すなわち張憲臣と小蘭、王郁と楚良がペアになり、劇中では、一班、二班と呼ばれる。ちなみに、チャン・イーとリウ・ハオツンは『ワン・セカンド』のコンビだ。張憲臣は妻の王郁に、生き残った方が子供を捜そうと云う。この時点で、本作の作劇的テーマは、工作員としての作戦行動と、離れて暮らす子供との再会であると了解する。

 敵はハルピンの特務警察。彼らの登場場面は捕縛者たちの銃殺シーンで、まず最初に、情け容赦のないキャラを印象付ける。処刑の最後の一人はワザとだろう、銃殺せずに、秘密を吐かせる。これにより、4人の共産党工作員に関する情報も、限定的ではあるが、敵に知られることになる。なので、二つの班が仲間だと思って接触する協力者たちは、皆、特務警察のメンバーであり、敵に監視されながら、泳がされるのだ。こんな状況の中で、いかに作戦を遂行するか、虚々実々の駆け引きや追跡劇が繰り広げられる、という案配だ。

 全編とてもスリリングなシーンの連続だが、まずは前半の、ハルピン行き列車のトイレを使った暗号伝達の場面がいい。4人の工作員は同一車両に乗っているのだが、お互いに知らないふりをしており、特務警察の協力者も同乗している中での、それぞれの動きが面白い。また、ハルピンに到着してからは、カーチェイスや銃撃場面などのアクションシーンも予想以上に上手く見せる。やっぱり、職人的演出に徹したときのチャン・イーモウの手際は見事なものだと思わせるのだ。また、降雪の表現や街並みの美術装置も見応えがある。

 悪役である特務警察の幹部メンバは5人いるが、この5人の描き分けも大したものだと思う。ボスの高科長の貫禄もいいし、裏切り者を捜査する小孟という女性科員もよく目立つ。私は、金志徳という係長が、ちょっと頼りない人物で(笹野高史に似ている)、コメディパートとして機能するのがとてもいいと思った。自分の車だけがメチャクチャにされたりする。

 尚、リウ・ハオツンが後半になってあまり目立たなくなってしまうのは寂しいと感じていたが、終盤、特に亜細亜シネマで『黄金狂時代』のパンのダンスを見る場面あたりからは、完全に彼女のパートになるので、不満は解消される。ただし、できれば、彼女のアクションシーンをもっと見てみたかったとも思う。前作『ワン・セカンド』の方が、暴れていたんじゃないか。多分、類い稀な記憶力によってこの作戦の工作員に選ばれた、という設定なのだろう。清楚な可愛らしさは充分引き出せているとは思うが、それでも、もっと銃撃や格闘シーンがあっても良かったんじゃないだろうか。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)シーチキン[*] けにろん[*] ペペロンチーノ[*]

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