コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 渇水(2022/日)

リアルとファンタジーがごちゃ混ぜになって、きわめて中途半端な映画。ただ、いろいろと考える契機にはなった。それと前橋市はよくこんな物語に実名で登場したな。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ネグレクト気味に放置された幼い姉妹が住む家で、料金未納を盾に機械的に給水停止を執行したことを背景に物語が進む。

ただこれって、仮に現実にこういう事件が発生し、公務員が逮捕されるようなことになれば当然、新聞沙汰になるだろうし、そうなれば子ども二人だけの家で、福祉との連携など適切な措置を欠いたまま給水停止をした行政は、広く社会的な批判にさらされそうなものだ。炎上したっておかしくない。

おそらくは前橋市は、金を払わないものの水を止めるのは当たり前で、そのために当人らがどうなろうが、それは自己責任で行政の知ったことではない、と機械的に給水停止をする町なのだろう。そしてそれに何か言われれば「法律で決まっている」「条例で決まっている」「規則だから」という程度なんだろうなあ。

だが、もう少し水道法と前橋市の条例を考えてみたい。水道法はその第二条で「国及び地方公共団体は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、かつ、水が貴重な資源であることにかんがみ、水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならない。」とある。

「水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならない」とあるのだから、料金を払わないものは止めたらいい、という法の趣旨にも見える。しかしその前段で、国と地方自治体は「水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないもの」だということを理解しなければならない、ということも書いてある。

「命の水」の言葉通りに、水が人の生命と健康に欠かせないものだということを踏まえなければならない。だったら、料金を払わない人にはその水を渡さないと単純な対応でいいのだろうか。

水道法第15条第3項は「水道事業者(地方自治体)は、当該水道により給水を受ける者が料金を支払わないとき、(略)、供給規程の定めるところにより、その者に対する給水を停止することができる。」とされている。料金を払わなければ水を止めることが「できる」とされている。あくまで「できる」であって「停止しなければならない」ではない。

義務ではなく可能とされていることの意味は、ケースバイケースで判断せよということではないかと思う。「命の水」と言われる水の重要性と、料金未納にいたった理由や背景、水道使用者の生活状況等など、総合的な判断をした上で、止めるかどうかを判断する、ということだと思う。そういうことを抜きに、機械的に料金未納と給水停止をイコールで結んではならないということだろう。

ちなみに前橋市の水道事業給水条例でも「給水を停止することができる。」という規定になっている。しかし劇中の前橋市は、そういう「できる」という規定の意味も考えず、「料金未納」=「給水停止」という機械的な判断しかしないのだろうし、それがどういう結果を招こうとも、そんなものは水道使用者の自己責任だとしているのだろう。

そういう物語の、映画の撮影に協力(映画撮影に協力するのはいいことだと思うよ)し、架空の市名を使わせるのではなく、実名で登場しエンドクレジットの協力欄に名前を載せる。要はこの劇中に描かれている前橋市の水道局の対応は、現実の前橋市の水道局の対応と変わりませんよ、ということなのだろうなあ。

さて、この映画は、一方では貧困やネグレクトなどきわめて現代的で社会的なテーマを扱いながらも、それらに対する踏み込みも批判的な視点もなく、機械的な給水停止についても同様である。そして、ただ一人の男の良心的な葛藤と、家族の再生だけに留めている。その点では社会派とは言えないだろう。(別に社会派でなくてもいいんだけどね)

物語の結末は、いい具合に雨が降ってきて、ラストはオープニングとは対照的に満面の水をたたえたプールで終わる。長きに渡る水不足が一気に解決する。ファンタジックではあるが、幼い姉妹がこれからたどるであろう運命は、施設への入所でさらりと終わらせている。そういう意味では中途半端ではあると思う。

でも、本作を観て、いろいろと考えさせられたのは事実だし、それはそれで大切なことだったと思う。だから悪い映画ではないと思う。

あと門脇麦がびっくりするほどきれいだった。蓮っ葉な魅力を感じさせるが、同時に生きることの厚みを感じさせるというか、生身の人間をきちんと演じていたと思う。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] ひゅうちゃん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。