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[コメント] ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地(1975/ベルギー)

いやあ凄い映画だ。3時間を超える上映中、まったく緊張感途切れずに見る。めっちゃスリリング。めっちゃ面白い。デルフィーヌ・セイリグ演じる、高校生ぐらいの息子と二人暮らしの主婦の日常。
ゑぎ

 ある日の夕方に始まり、翌々日の夜までの約三日(丸二日間)のお話。もう冒頭の食事の準備(じゃがいもを茹でたり)、入浴やバスルームの掃除といった細々とした動作、ルーティンワークをずっと見せる部分で、既に目が釘付けになってしまう。各部屋を行ったり来たりし、窓を開けたり閉めたり、電灯を点けたり消したりするリズムが、とても心地よいのだ。それに、バスタブで体を洗う長いショット(上半身裸のショット)も嬉しい。二日目の朝は起床してエメラルドグリーンのガウンを着るところから始まって、コーヒーを淹れたり、息子の靴を磨いたり、食器を洗ったり、といった姿をずっと見せる。このあたりも、スター女優デルフィーヌ・セイリグの、プライベートを見せられているような感覚も沸き起こって来て、一挙手一投足に目が離せなくなるのだ。

 そして、本作が本当に面白くなるのは、一度見せられた同じルーティーンの動作が、ちょっとずつ、崩れ始める部分だ。例を上げると、二日目の夕方は、火にかけていた鍋の食材をダメにしてしまうし、窓を閉めたり電灯を消す順番も初日とちょっと違う。なんかギクシャクしている。帰宅した息子に、髪の毛が乱れていると指摘されたりもする。三日目の朝は、エメラルドのガウンのボタンをちゃんと止めない。靴磨きも、洗い物も雑。息子は何か忘れ物をする。多分、コーヒーは不味かったのだろう、もう一度淹れなおす、等々。もう、前日までとの差異を、目を凝らして確認したくなる。これって画期的なスリルの醸成じゃないか。

 また、画面造型には強烈な一貫性がある。部屋の中は、奥の壁やドアに垂直にカメラを向けている(画面としては平行というか)。戸外のシーンも、壁などがあれば、同様だ。道路であれば、歩道が奥に垂直に延びる構図。この構図の統一においては、ワンカット例外があったくらいだと思う。さらに、ほとんど、場所や部屋が変わらない限り、カットは割られない固定の長回しの演出で、これらの一貫性、あるいは厳格さが、緊張感持続に奏功している面は大きいだろう。

 尚、上では割愛したが、本編中夕刻は三回あり、セイリグは三回とも別の男を寝室に招き入れ、お金を取る。この行動を息子も知っている(あるいは、うすうす気づいている)のだろう。セイリグと息子が就寝前にする会話で、息子はセックスに関して言及するのだが(例えば、自分が女の子だったら、好きでもない男と寝たくない、と云う)、この部分も実にヒヤヒヤするような面白さだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)irodori[*] ぽんしゅう[*]

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