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[コメント] 658km、陽子の旅(2022/日)

理解できないけど共感できる私がいる。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私は熊切和嘉を「苛立ちとグーパンチを描く作家」と呼んでいるんですが、本作も「苛立ち」の映画だと思います(グーパンチこそ出ませんが)。それで今回気付いたのですが、その苛立ちは「閉塞感」から生じているのです。そう言えば、熊切作品はどれも常に、どことなく閉塞感が漂っている気がします。

あともう一つ気付いちゃったんだけど、私の好きな熊切作品は宇治田隆史脚本ばかりで、実は宇治田脚本が良かったんじゃないか疑惑が生じました。いや、演出は完璧なんだ。熊切の切り取る映画的情景が好き。それに巧い。菊地凛子のかすれた第一声だけで、もう長いこと人と会話していないことを描き切る。本当に巧いんだ、この人。ただ、私があまり好きでない作品は、お話(脚本)に「ん?」となる。そしてそれは100%宇治田脚本ではない。そしてこの映画も宇治田脚本ではない。

この映画でちょっと、いや、かなり意外だったのは、主人公の迷走が偶発的なものだったことです。私はてっきり、例えば「やっぱ行かない!」など、自発的な理由で迷走するものだと、勝手に思っていたものですから。

そうするとね、「大人」な私はイライラするんですよ。もっと他に手段があったんじゃねーの?もっと早く電話すればよかったんじゃねーの?てゆーか、最寄り駅に連れてってもらえよ。私には、主人公の行動が理解できない。

ところがこの映画は、「コミュ障が自分語りをするまでの物語」を描くんです。その自分語りの中で、「18(だったかな?)で家を飛び出した時、父は42歳。いま自分が当時の父と同じ年齢になった」と言うんです。つまり、「あの頃大人だと思っていた年齢に自分が到達したのに、あの頃思っていたような大人になっていない自分」を自覚するんです。これはある意味「大人になりきれない大人」の物語なのです。それはめちゃくちゃ共感する。 菊地凛子のワンカット長台詞も含めて、グッとくる。黒沢あすかと菊地凛子が同じ画面にいるだけでグッとくる。

理解はできないけど共感できる映画。それが正直な感想です。

(2023.07.29 テアトル新宿にて鑑賞)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ひゅうちゃん ぽんしゅう[*]

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