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[コメント] 哀れなるものたち(2023/英)

ようこそ、この滅びと生の不思議の国、「人間の世界」へ。シン・『シザーハンズ』+不思議の国のアリスの趣。哀れなるものたち、抑圧と解放、被害者と加害者を己の中に同居させる不思議な獣。世界のバランスに関するグロテスクな寓話。ややもすると宮崎駿の生き霊が憑依している。面白いが、撮影はやり過ぎ。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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生まれてきてみたら、不思議の国でした。ハサミの手こそ持っていないが、無垢な魂がグサリとやったり、グサリとやられたりする。嵐を呼ぶ胎児。

自分達の作り出したシステム、金やら倫理やら神やらで自分を縛りつけたり人を縛りつけたり。ヤったりヤられたり。人間は延々と殖えたり減ったりし、挙句には胎児は「モンスター」呼ばわりされる。自滅的にこの哀れなるものたち=人間は滅ぶだろうが、それでも世界を見よ、と「ゴッド」・デフォー氏と娼館の老婆もとい神殺しの「ゴッド」・ランティモスは告げる。世界を全て見てから判断せよ。見たくないだろうが、見て、考えよ。世界は「カイゼン」するかもしれないし、しないかもしれない。多分しないだろう。そんな中で彼らは彼らなりに「自由に」生きた。彼らは間違えたかもしれない、しかしその正否はどうでもいいことだ。私は生きて、見てきたように「自由に」に描いた。だからラストはカラフルなのに真っ黒だ。ところで、君たちはどう生きるか・・・って、もしかしてこれ、宮崎駿の本性的な思想に接近しているのでは、、、(ややもすると、シン・『千と千尋』、、、)

人間を描くならグロテスクにならざるを得ない、だってグロテスクなんだもん、というランティモスの澄まし顔はほんとに頼もしい。ただ今回の撮影はさすがにやり過ぎ。ベラの人格が安定してきた段階で切り替えがあればいいのだが、終始これではズーミングと広角レンズが空振っている感がある。

デフォー先生はもう何を演ってもズルい柄本明的領域に達しており、素晴らしい。エマの風貌ってなんか赤ちゃんぽいな、と思ったであろうランティモスの慧眼に拍手。

アレクサンドリアの章で登場するニヒリストの青年が好きだ。好きだと思っているそばからグサリとやられたが、、、

(評価:★4)

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