[コメント] リンダはチキンがたべたい!(2023/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
マンモス団地を舞台に子どもたちがイキイキと躍動する大人たちも巻き込んでの大騒動というのにワクワクする。どこの世帯も裕福ではなく大人の目が行き届かない中で、大人のいうことなんて聞かないし、基本興味本位でしか行動しないけど欲得ずくでの付き合いはしないこの団地での気持ちのいい子ども社会の人間関係がしっかり描かれていると思う。なかでもリンダの3人の友だちがリンダに帽子を貸してあげたり、チキンを食べたがってるから友だちの家をまわってチキンを探したりパプリカを焼いたりっていうのに一切理由なんて聞かないのが羨ましい。大人はこういう時「なんで食べたいか?」「それは今日でなければならないのか?」とストライキでチキンが買えないという状況を鑑み、諦めるよう調整してしまうのだろう。調整はいつでも悪いわけではないが、大人は何をするにもまず調整から入っちゃうんだよな、調整することに無自覚だよな、と改めて認識するのだった。
リンダの母親である妹に子どもの頃から迷惑をかけられてばかりの伯母さんのキャラがいい。バカで無神経な妹とその親にしてその子ありのリンダに結局は優しいし、ヨガ教室で心のセラピーを説いているのに、自分は精神のストレスを甘いもののヤケ食いで紛らせているという性格の可愛さったらない。
抽象性の高い絵本のような作画だが、団地の窓から子どもたちだけが顔を出し子供たち同士の心の会話が交わされる場面などは、こういう作画でなければ描けないだろう。手書き風でありながら自動車のシーンは切り返しなどが3Dでふんだんに描かれていて、しっかりCGも使っているあたりはさすがフランス、芸術に一日の長を感じる。絵だけでなくSEが素晴らしく、団地の広場の反響音や、窓をうつ雨の音などがいい音だなと感心した。
リンダがお父さんとの最後の食卓の場面を思いだすくだりのお父さんの「こんなバカみたいな死に方をして〜」っていう歌と、リンダが脳の中にとどめていたお父さんとの記憶を思い出すシーンが心に沁みる。あとあの鍋の中から無限にふるまわれていくパプリカチキンのイメージにも幸せを感じた。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。