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[コメント] ラストマイル(2024/日)

獣になれない弱者の私たち。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







面白かったですよ。いや、正しくは「よく練られているなあ」と「感心した」というところでしょうか。

いくつか論点があるんですが、ちょっと話が盛りだくさんだったので「安藤玉恵のエピソードいるか?」と最初は思ったんですけど、実はこのエピソードは必要だという2つの観点から書き始めます。

まず、監督の塚原あゆ子。彼女、デビット・フィンチャー好きなんですよね。凝ったオープニングなんて、もろフィンチャー。そう考えると、『パニック・ルーム』やりたかったんですよ。

もう一つ。この話に登場する女性たちが皆「強い」んですね。主人公の満島ひかりはもちろん、石原さとみや薬師丸ひろ子、麻生久美子に至るまで、皆、精神的にも社会的にも「強い」。ですが、この映画は決して「強い女性」を主目的とはしていない。この安藤玉恵は、「社会的弱者」の象徴として描かれているのです。

つまりこれは「社会的弱者」に焦点を当てた物語なのです。「アンナチュラル」や「MIU404」といった野木亜紀子脚本TBSドラマとの繋がりが謳われていますが、本質は日テレ「獣になれない私たち」だったのです。

ネタバレになるので詳細は避けますが、この映画のほぼ全てが社会的弱者のエピソードです。中でも特筆すべきは、火野正平と宇野祥平の禿野ショウヘイ親子の物語。良い製品を作っても廉価製品に負けて倒産する会社の悲哀。そして配送業者の悲哀。まるでケン・ローチ『家族を想うとき』。

大抵の作家(監督や脚本)は、その主義主張を言うだけで終わってしまったり、あるいは主義主張のために映画のトーンが崩れたりするのですが、稀代の脚本家・野木亜紀子はその主張を伏線にして、きちんと回収する。そういう手腕には「感心」します。まあ、偶然が過ぎるけどな。

でもね、NHK「フェイクニュース」など意外に社会派の野木亜紀子は、結構強いメッセージ(ある種の説教)を打ち出してくるんですよ。本作は「社会的弱者」のストーリーを軸に人間の「欲望」を問いかけている。実際、岡田将生は「欲しいものは何もない」と言い、満島ひかりは「全部欲しい」と言う。そして、「あなたが欲しいものは?」と、劇中CMの体で、観客に向けて投げかける。

あなたの欲望は、誰かの犠牲の上で満たされていませんか?

これがテーマに思えます。なかなかの説教ですよ。そういった欲と悟りの物語という点では、テレ東「コタキ兄弟と四苦八苦」に通じるものもありますな。「アンナチュラル」や「MIU404」という「欲望」で観客を釣って、ドカンと爆弾(説教)を投げつけるという映画だったのかもしれません。

(2024.09.01 吉祥寺オデヲンにて鑑賞)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)もがみがわ ダリア[*]

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