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[コメント] ぼくのお日さま(2023/日)

これは佳編。本作もスタンダードサイズ。野球場のロングショット。外野の守備位置で、ぼうっと上空を見る少年−タクヤ−越山敬達。白いものが降っている。ボールが頭上を越えていく。「初雪」と云う。
ゑぎ

 本作は約一年間の時間軸だが、このプロローグとエピローグを除くメインのプロットは冬景色だ。かなりの積雪。雪が積もると、タクヤたちはアイスホッケーをする。こゝでもゴールの前で突っ立っているタクヤ。皆がやりたがらないキーパーを押し付けられている(というのは後で科白で分かることだが)。胸にパックが当たって倒れる。

 スケート場は、ホッケーの後にフィギュアスケートの時間帯になる。一人残って見るタクヤ。彼が見ているのはドビュッシー「月の光」で滑るサクラ−中西希亜良だ。めっちゃ可愛い(タクヤもサクラも両方とも可愛いと思う)。タクヤはサクラに恋をしたのだろうか。それともフィギュアスケートに恋をしたのか。後半、コーチの池松壮亮若葉竜也に「真っ直ぐな恋」と云う科白があるが、これは、池松は、タクヤがサクラに恋をしたと受け止めているということだろう(若葉は「俺たちの恋は真っ直ぐじゃないのか」みたいなことを云う)。

 しかし私は、どちらかと云えば、タクヤはサクラ以上にフィギュアスケートに恋をしたのだと感じられた。いずれにしても、その真っ直ぐさがよく伝わってくる演出だ。徐々に上手くなっていくタクヤを繋ぐシーケンスが一番良い部分だと思う。池松の古いボルボに乗ってタクヤとサクラが連れて行かれた、凍った湖での練習場面。3人でふざけるように遊ぶシーンにゾンビーズの「ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド」が流れる場面が最も幸福な瞬間だろう。ただし、私は天邪鬼なので、こゝは少々あざとく感じる。こゝよりも、リンクに一人いるタクヤにサクラが近づいて来て「合わせよう」と云ってからの2人のシーンが好きだ。また、サクラはコーチの池松に恋をしていたのは確かだろう。しかし、サクラの感情がほとんど描かれないのはもどかしいが、そこが良くもある。

 さて、本作も、全編に亘って軟調の画面だ。淡く白い光。私には、時にルック(露光)の一貫性を欠いても、この光を取り入れようとしているように見えた。あと、屋内(タクヤの家のダイニングなど)におけるシンメトリーな構図の反復といった部分もスタイルがある。前作『僕はイエス様が嫌い』同様、撮影も監督が兼務しており、そろそろ一流の撮影者に任せたほうが良くないだろうかと思いながら見た場面もあるが、スケートシーンの移動撮影の美しさなんかを見ていると、このまゝ撮影兼務で良い作品を連打して欲しいと思い直す。

(評価:★4)

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