[コメント] シビル・ウォー アメリカ最後の日(2024/米)
このファーストカットは、斜めの逆光がグラデーションを作る絵画的なショットだ。男性(大統領)が演説のリハを始める。他にも絵画的な画面が随所で出てきてキャッチする。例えば、自動車の窓から手を出して、ゆらゆらさせるジェシー−ケイリー・スピーニーから、公園のスプリンクラー、その噴射する水へ繋ぐ画面。同じように、車の窓から手を出すサミー−スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンと山火事の火の粉。スプリンクラーの水や火の粉が舞う画面は、光の揺れ、揺らぎを表して、本作のシチュエーションや人物の心性を象徴するようにも思えてくる。あと、私が絵画的だと思った極めつけは、沢山の死体が放り込まれた穴の上に落ちたジェシーを俯瞰で撮った画面の色彩だ。まるで抽象画のようと思った(ジャクソン・ポロックみたい)。
これらの造型も含め、画面の面白さへの貢献という点で、なんと云っても美術装置が立派な仕事だと思う、それは意匠もそうだが、物量含めて圧倒された。例えば、ハイウェイに壊れた自動車が無数に放置されているショットや、シャーロッツビルの西部勢力を見せる導入部の、装甲車3台とヘリコプター数台を同一フレームに収めた空撮なんかは特筆すべきだろう。どんどんヘリが画面にフレームインするショットのセクシーなこと。このヘリには、第一騎兵師団のマークが付いている(ワシントンDCへ向かうシーンではっきり分かる)。西部軍(ウェスタン・フォース)というだけあって、西部劇の騎兵隊の末裔なのだ(第一騎兵師団は『地獄の黙示録』のキルゴア中佐の部隊もそう)。
また、本作はニコンFE2とSONY α7(レンズはライカ)の映画だ。ニコンはジェシー−スピーニー、SONYはリー−キルステン・ダンスト。しかし、ニコンの方が記憶に残るのだ(SONYのブランドネームが黒テープでマスキングされていたこともあるが)。それは、ニコンで撮影されたモノクロ映像が何度も何度もストップモーションのように挿入されるからだし、スビーニーの位置付けが、ビリングトップのダンストと同等あるいはそれ以上だからだ。ただし、スピーニーの短時日での成長ぶりはある意味胡散臭く、狂信的というと云い過ぎかも知れないが、ワーカホリックに過ぎる変貌は気持ちが悪い(アイロニックな造型なのだと解釈するが)。
そして、演者で抜群なのは、やはり、カメオ出演のジェシー・プレモンス−赤いサングラスの男だろう。この人の怪演があることで、本作がよりしっかり引き締まった出来になっていると云えると思う。ただし、このシーンの前に、高速で並走する自動車の窓間を人が移動するという緊張感あふれる場面を用意し、その緊張が緩和された後に連打されるという構成や、望遠レンズを用いた空間圧縮効果や、上にも書いた「穴」の美術などが奏功しているということも明記しておきたい。
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