[コメント] ルート29(2024/日)
生き辛そうなのり子(綾瀬はるか)の魂の半分はすでにこの世にないかのようだ。だから彼女とハル(大沢一菜)の道行きには始終死の気配がつきまとい29号線はまるで生死の結界のようだ。旅の終点の、その先に広がる砂丘の向こうに二人は西国浄土を見たのだろうか。
赤い女の逃走した三頭目の犬の生首。サンカ(山の民)の如く人間界を捨てた人間の父子。二人の背後を追い湖で来迎される老人。誠実さと不誠実さについて夢遊するように自省する女教師。老婆が営む時計屋では、人の寿命を刻むように壁一面の振り子時計(寺山修二!)がバラバラの時を刻む。そこで手に入れた恐竜の骨でできた時計。
そんな死の気配が漂う本作は、開巻早々、若木のように溌溂とした十代前半の少年少女たちを捉えながらカメラが左から右へ大きく横に移動して始まる。そして国道29号線の終点で、夕闇せまるなか大きな月を憑かれたように凝視する街の人々を捉えながらカメラは逆に左から右へ大きく横移動する。右から左へ、そして左から右へ。このカメラの視点の往復は「此岸」と「彼岸」の往還であり本作のクライマックスだ。アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』(2018)で観た、怒涛の波が押し寄せる圧巻の海岸シーンのパノラマのような視点の横移動の往還を思い出す。
私は森井勇佑監督の前作『こちらあみ子』の感想で次のようなことを書いていた。「すべてを大沢一菜の存在感に託した思い切りの良さは十二分に成功していると思う(中略)ただ森井勇佑が伝えたかったことを「映画」というカタチにするにはもう少し主体的な工夫(補助)が必要な気がした。」
何のことはない、こんな下手な感想など意味もなく(私の)予想を超えた本作の森井監督の“主体的な工夫”に脱帽する。これで次回作も必ず観なければならなくなった。
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