[コメント] リアル・ペイン〜心の旅〜(2024/米)
この調子でこんな作品を連打できれば、ウディ・アレンの後継者なんてレベルではなく、もっと良い映画作家に成長するかも知れない。ただし、本作はキーラン・カルキンの才能の再発見と、ホロコースト・ツアーという題材の持つ力の作用している部分が大きいというのも確かだろう。なのでフロックということになる可能性もあるとは思う。それでも、画面造型は前作以上に端然としており、無駄なカメラワークはなく、かっちりとした切り返し主体の演出が抜群の安定感を醸し出している。例えば、3人以上の着座での会話シーン、本作だとベンジー−カルキンがワザと大きなゲップをし、小便に行くと云って席を立つディナーの場面なんて、カット割りの洗練は前作を軽く上回っていると感じた。
また、ある状況やモチーフが多く繰り返されるプロット構成の妙も指摘できる。ベンジーに「お祖母さんの足に似ている」と云われたデヴィッド−アイゼンバーグが自分の足を見つめる場面の反復。墓石の上に石を乗せるという行為は、その後2つの異なる家屋の玄関に石を置くかたちで反復される。あるいは異なる列車の一等車に乗るという状況。夜のビル屋上での喫煙。空港ロビーでの人間観察。ファーストカットとラストカットのカメラワーク。そしてルワンダ虐殺とホロコースト。
しかし、普通に最も楽しいシーンとしては、ワルシャワ蜂起記念碑の前で、ベンジーが闘う兵士の像の真似をすると云いだし、デヴィッドは「不適切と思われるかも」と云うシーンかも知れない。結局、デヴィッド以外のツアーメンバー全員が参加することになり、皆からスマホ渡されるデヴィッド。こゝは面白かった。また、冒頭のノクターン以降、ずっとショパンのピアノ曲が劇伴で使われているが、くだんのディナーの場面の最後、レストランのピアノで「二人でお茶を」が流れ始めるという演出もいい。アイゼンバーグの才が感じられる。これを記述している今現在、アイゼンバーグとカルキンは共に本作でオスカーノミニーだが、できれば2人ともウィナーになって欲しいと思う。
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