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[コメント] 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は(2024/日)

年間ベスト級の作品と思う。私が見た大九明子の中では一番昂奮させられた。私には、いかにも名作然とした作品よりも、畸形的に突出した細部を持った作品を好む傾向があるからかも知れない。
ゑぎ

 この映画の中の、萩原利久河合優実伊東蒼、この3人がそれぞれ一人で延々と喋るシーンの演出は突出しているだろう。とりわけ、伊東のそれ−夜の道で萩原に思いのたけを一人喋り続ける場面−には、畸形的な逸脱を感じる。今これを書きながら思い返しても、涙が止まらなくなるぐらい昂奮が再燃する。

 フィルムと映写機を回転しながら接写して見せる金色地の日活ロゴの時点から、雨音が聞こえる。ファーストショットは白いヘッドホンをした女性の後ろ姿。次に青い傘をさす男性。また、雨降りのショットと晴天(曇天?)のショットがせわしなく繋がれる。男性は萩原だとすぐに分かる。白いヘッドホンの女性は、河合かと思ったが、途中(前半段階)で、このヘッドホンは伊東がしているので、開巻は伊東のショットだったのかと思う。これは終盤で、誰のいつの情景かは種明かしされる。

 このオープニングが表しているように(というかタイトルもそうだが)、本作は雨降りをはじめとした天気についての映画であり、傘の映画だ(萩原の青い傘は、本来は日傘)。あるいは、音に対して敏感な映画であることも開巻の雨音で示されている。記憶に残る音の場面が沢山ある。赤い郵便受け(玄関ポスト)に物(鍵?)を入れる際の音。伊東は大学でバンドをやっている。「月の光」のギター演奏。ギターは水中で登場する浅香航大も持っている。河合が云うテレビの音量最大という恐怖の実験も何度か試される。というか、テレビの音マックスは最終盤まで引っ張られるテーマ(関心事)になって来る。そして、伊東が世界最高の前奏というスピッツの「初恋クレイジー」。ついでに、科白で忘れがたいのは「さちせ」と「このき」。

 あと、本作のアスペクト比の基本はアメリカンビスタだが、中盤でスタンダードサイズに変化する。実は被写体に没入してしまっていて、どこでスタンダードに切り換わり、どの場面でビスタに戻ったのか判然としていない。萩原と河合が互いにセレンディピティを感じている一連のデート場面がスタンダードだったことは確かだ(犬が大学構内を走るショットも含めて)。

 全編、ゆったりとした(よく見ていないと分からないぐらいの)ズームは何度か使われるが、終盤に河合の顔面への急速ズームインがあり、アップになるという演出がある。こういう意図の明確なズーム利用は悪くないと思う。さらに、この終盤には2シーン・ワンショットが連打される(異なる2つの時間・場面を同一ショット内で現出させている)。これも最終盤に至って見応えがあり、満足感を高めていると思う。ラストショット(エンドクレジット)の静謐さもいい。最後にオマケのように書いてしまうが、関西人の私でも、河合優実の関西弁に1ミリも違和感を覚えなかった。勿論、伊東蒼の関西弁の方が可愛いと思ったが。

#備忘。犬の名前、さくら。

(評価:★4)

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