[コメント] 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間(1969/日)
ナイフで襲ってくる女は片山由美子で、彼女はこゝだけの出番だ。気持ち悪い看守は高英男。多分、沢山の裸体を見せるためだけで用意されたシーケンスという気がするが、ちゃんと見せ場になっている。吉田は、いとも簡単に、この病院を抜け出して、自分のルーツ(故郷)を探す旅に出る。
吉田の記憶の断片の映像化シーンがフラッシュバックされるが、これも異様な雰囲気だ。断崖のある島。波打つ海岸。そこに土方巽演じる獣のような男が登場し、彼は、振袖の着物を着て、岩の上で踊ったり、浜辺を走ったりする。あるいは、納屋の中の美少女と醜い男。そして子守唄。
吉田は、故郷の子守歌を唄っていた曲馬団の女−由美てる子から「裏日本」というキーワードを入手し、日本海側を列車で旅するのだが、どうやって故郷を探すのだろうと思っていると、自分とそっくりの男の死亡記事が、新聞に掲載されているのを見つける。またも、いとも簡単に、故郷にたどり着くのだ。こゝで挿入される、葬列のカットが、スコープサイズの画面を上手く使ったカットで、明記しておきたい。
吉田が、墓を暴き、死者が生き返ったように見せかける(成りすます)場面はなんとコメディ・シーンとして提示される。寺の坊主で由利徹と大泉滉、医者の上田吉二郎、看護婦の桜京美という4人でのコントだが、まったく浮いた場面になっている。
成りすました吉田は、故人の妻−小畑通子だけでなく、浮気相手−賀川雪絵とも、別人だと疑われないかと警戒しながらも誘惑に勝てず、関係を持つ。というのはお定まりの展開だが、サービス精神だろう。
そして、吉田は、賀川と番頭の小池朝雄、使用人の大木実らを連れて、故人の父親が住む孤島へ渡るのだが、こゝからが、本作の瞠目すべきパート、ストロングポイントなのだ。こゝの導入部は、記憶にある断崖が映り、序盤であったフラッシュバックが、そっくりそのまゝもう一度繰り返されるし、島の風景の中に、裸の男女が登場した当座は、イマイチかと思ったのだが、徐々に、常軌を逸した画面が目白押しになる。特に、川を行く船の造型は、異様だろう。丘で羊とまぐわう人のイメージだとかも。もう土方率いる暗黒舞踏メンバーの独壇場になるのだ。タイトルを表す奇形人間自体の造型は微妙ではあるが、手術シーンの演出もぶっ飛んでいる。エンディングの大爆発以上に、これは明記すべきと思う。
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