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[コメント] トイ・ストーリー(1995/米)

小馬鹿にしていたものに裏切られる快感。映画というのは時にそう言う面白い感情を味あわせてくれます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 初の全編フルCGアニメとして有名になった作品で、ピクサーの名を飛躍的に高めた作品としても有名。

 尤も私は全然期待もしておらず、観る価値なんて無いとさえ思っていたのだが…  TVで放映されたのを観た時にえらいこと後悔した。

 これだけの作品を劇場で観逃すとは!自分の先入観の狭さはどうしようもないと、ほとほと恥いってしまった。他の人と較べると、比較的アニメとかには親和性があるはずなのだが、「子供向き」と決めつけてしまうと、全く観る気が起きないようになってしまう。この辺が私の情けなさだな(同じようにクレヨンしんちゃんシリーズもかなり後まで観なかったし)。

 観る前は本作の魅力とは、てっきりフルCGの部分だと思っていたのだが、決してそうではなかった。

 本作の最大の魅力は、物語と設定の良さにこそあった。映画にとって最も重要な部分が最も優れていたと言う単純な事実を突きつけられては、全面降伏するしかない。これははっきり言って衝撃的な作品だったよ。

 物語はシンプルな上に、大変当たり前の友情物語。最初反目し合っていた二人が幾多の困難を乗り越えることで、互いを認め合って、大親友になるというパターンはそれこそ映画の初期時代から描かれていた話で、バディ・ムービーの基本でもある。それを何のてらいもなく極めてストレートに描いたのだが、その過程が丁寧に丁寧に緻密に描かれており、これだけベタな物語なのに、もの凄く感動できる。思うに物語というのは、複雑にする必要は無いのだ。最も単純な物語こそが、大人も子供も感動させる良い話になり得る。しかも主人公ウッディが結構子供っぽい屈折した性格に描かれているお陰で、観てるこっちがほんとに切ない思いにさせられる。私には弟がいたが、確かにこんな意地悪をよくしたもんだよ。そう言う子供の時の思いが一気にわき上がってきて、何だかもの凄い切ない気分にさせられてしまった。

 それにおもちゃを主人公にするという設定が上手い。これまたベタな話のはずなのに、おもちゃが所有者に対して持つ思いって言うのは、子供が親に対する独占欲とつながるだけでなく、自分自身がこんなに愛されていたのか。と思わせてくれたことが大きい。こんなに愛されていたのに、私がおもちゃ達にした仕打ちはどうだったか…これも振り向くだに切なくなってくる。

 ここでおもちゃの所有者であるアンディは、自分に向けられている愛情に全く気づくことがない。それが実は重要な点なのだ。観ている側は、自分自身をウッディに重ねると共に、個性の感じられないアンディにもかつての自分を投影できるのだ。だからこそ、切なくなり、罪悪感を持つ。それらのごちゃごちゃした気持ちが、最後の飛翔ですーっと消えていくことを感じることはもの凄い快感だ。

 結局本作の優れた点とは、観ている側が自分自身に対して向けられる思いというのを喚起できると言う点にこそあるだろう。子供はリアルタイムに、そして大人は子供の頃の自分自身に対して。同じアニメ作品であるとなりのトトロ(1988)が今でも絶大な人気を持つのは大人の側がノスタルジーを感じるという点が大きいと思うのだが、本作も又、ノスタルジーを得られると言う点で言えば、大変優れているし、その主題はどんなに時代が進んでも同じものが得られる。だからこそこの作品は決して古びることがない。オールタイムで観てもらいたい作品だ。

 最後に、本作の最も優れた部分であり、重要なのは、「あなたはこんなに愛されているんですよ」というメッセージ性にこそあったのではないか?と言うこと。愛してくれる対象は確かにここでは人間ではない。だけど、誰しも昔、子供の頃におもちゃで遊んだ記憶があるだろう。おもちゃに対して愛情を注いでいた時期があっただろう。そのおもちゃも又、あなたを大好きだったんだ。今もなお大好きなままいてくれる。あなたは自分自身で気が付いてないだけで決して誰からも嫌われる存在ではないのですよ。それこそが最も重要な点ではなかっただろうか?

(評価:★5)

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