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[コメント] 名もなく貧しく美しく(1961/日)

感動的なアイデアに溢れている。冒頭の空襲シーンのスペクタクル的テンションからして並ではない。所詮脚本家出身の監督などと侮ってはいられない大した演出力だ。当時の東宝の主力級スタッフ(撮影玉井正夫・照明石井長四郎・美術中古智)を擁していたからといって、それだけでここまでの映画になるものではない。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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メインキャストの演技や戦後風景の美術のすばらしさについては云うまでもないだろうから、ここでは文字通り溢れている感動的なアイデアとやらを物語の進行に沿って列挙してみよう。紐で縛られた超ミニサイズの亀。出逢ってまもなくの高峰秀子小林桂樹が闇市前(?)で話しこむさまを画面から覆い隠す列車(この映画において字幕が最も創造的に使われている場面でもあります)。高峰の聴力喪失の原因が「枝豆の食べすぎ」であったという脱力ぶり。一頭の動物もいない動物園。その檻の格子越しに描かれる小林の求婚。高峰が母の原泉に子供を産みたいと告げてから実際に出産するまでの驚くべき速さ。小林と高峰の靴磨きの所作のプロフェッショナル性。急須を叩いての大はしゃぎ。川を挟んでの手話。謎の赤ちゃんコンクール。びっくりするくらい憎たらしく島津雅彦を造型することで、その成長後のいい子ぶりとの間につけられる落差。親子三人ラジオの音楽に合わせての楽器の弾き真似。高峰の弟の沼田曜一の容赦ないろくでなしぶり(必死にトラックを追いかける高峰! 追いかけすぎ! そのさまを見せるカメラの冷徹なこと!)。夫婦の絆を確かめ合う列車内の手話、そこにおける「列車」と「窓」の使い方、さらにはバラバラに千切られて捨て飛ばされる書置きの手紙。息子の卒業式前夜、総代として証書を受け取るその予行に際して証書の代わりに使われる新聞紙。加山雄三の好青年ぶり。高峰の交通事故死の瞬間性(露悪的とも云えるこの展開については確かに評価が分かれるかもしれませんが、もしこのような展開が許されるとするならば、それはこの「瞬間性」と云うべき演出の厳しさのためです)。

 宿屋シーンの高峰と小林の会話においては小津的な一八〇度の切り返しが使用されており、力強い画面を多く持ったこの映画にあってもその異様な相貌は際立っています。小津においては「普通」の画面であるそれがいかに異形のものであるかを不意に思い知らされます。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)死ぬまでシネマ[*] 直人[*] ぽんしゅう[*]

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