コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 穴(1960/仏)

もし私がフランス国民でフランス政府に税金を納めているのだったら、・・・やっぱり刑務所長にはこういう人物であってほしいネ。としか言いようがないよ君。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 会話の内容などから判断すると、看守たちも知性のレベルは囚人たちと大差ない。班長と呼ばれていた看守だけが、物の分かった風情を示していたが、これも囚人たちからは見透かされている。この作品では唯一刑務所長のみが、相応の知性と鋭い観察眼を兼ね備え、かつ高い職業意識を持つ”人間的人間”として登場する。

 これをフランス社会のエリートと呼んでいいのかどうか分からないが、背景の説明がほとんどないことから想像すると、フランス人の間では極めて普通の所長像であると思われる。実際、19世紀の文豪小説(アレクサンドル・デュマの『王妃の首飾り』とか)に出てくる刑務所長は、こんな奴ばっかりである。面白いのは、19世紀的”人間的人間”は重要な役割を担うことはあっても、決して小説の主人公にはならないことだ。が、これはまた別の話。

 さて、ラストでガスパールが「違う!俺じゃない!」と叫んだことが話題となっているようだ(どこで?まあいい)。所長と囚人という立場の違いを上手く利用できる有能な職業人にとって、ガスパールのようなウブな青年の隠し持った秘密を暴くことなど玉ねぎの皮をむくよりたやすい。それだけでは2時間もかからない。彼には、それ(=秘密を告白すること)が正しい行ないであると彼に確信させることさえできた。監房に戻ったら斯く振舞えと指示を与え、彼の不安を払拭する(告白した以上、戻りたがるわけないから)のにかかった時間が2時間だ。彼(ガスパール)の確信に満ちた振舞いを見よ!

 ではなぜ「違う!」と叫んだのか? 彼は、囚人らを捕縛するタイミングだけは彼に教えなかったのだ。あるいは、ガスパールを追い遣った後、変えたのかもしれない。もちろん、最も効果的なタイミングを図って、だ。なぜって、所長の立場ならガスパールには論功賞を授け、ダメージを与えないようにすることも出来たのだから。だからガスパールは「俺じゃない!」の後には「(悪いのは)所長だ!」と続けたかったはずだ。でもそんなこと言えるわけない。だって「所長」にチクったのは「俺」だから。だから彼は、後を続けられずに黙り込んだ。

 所長の完勝である。もしガスパールに少しでも不審なところがあったら、あれだけ慎重で明敏なマヌ(初めにガスパールの入室に対し執拗に抵抗を示した男。そして刑務所の外の夜明けの街並みを一緒に眺めた男)に見抜けないわけないもの。見抜いたところで、何か打開策を産み出し得たか不明だけど。だがハリウッド映画なら、必ず解決策を用意してくれたはずである。観客の期待をいい意味で裏切らないハリウッド映画なら・・・。まあ、少なくとも(→以下コメントへ戻る)

75/100(03/09/01記)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] tredair[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。