[コメント] 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花(1980/日)
上手くいかない男女の間の機微を描写して巧み。気持ちと裏腹な言葉が独り歩きしてゆくのを見送るばかりなのだが、その諦念は馬鹿に明るい。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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誰だってそうしている、明るい諦念で社会は廻っているのだ。岡惚れの男女が全てくっついたら、そこらじゅうで浮気が発生して重婚になる。だから本作は流れ者ふたりの物語をこえて、普遍的な鉱脈を突き当てていると思う。
とりわけ、これまでのシリーズのフォームを転覆させかけるクライマックスに息をのんだ。リリーの交わるいつもの茶の間で、突然に限界状況が発生する。だてにシリーズ続けている訳ではないんだ、と監督は云っており、これは参りましたと応えざるを得ない切れ味がある。
家族全員を前にしての告白とは、思えば照れ屋の男がする行動ではない。これは、正にやけのやんぱちなのか。それともリリーの応答を承知したうえでの、心配している家族へのアナウンスだったのだろうか。寅さんの胸の内は測りがたく、複雑な機微のニュアンスが作品を謎めいた豊穣なものにしている。
本作、寅さんとリリーの関係に物語を絞っているのが成功しており、ふたりの明るい諦念に溢れたラストも素晴らしい。私は、沖縄の病室で寅さんが患者をみんな集めて笑わせているショットが大好きだ(空のベッドからパンするキャメラがいい)。通りすがりの美人スチュワーデスの後を追い始める寅さんはグルーチョ・マルクス直系。米軍のジェット機を寅さんがバスから眺めるショットなど、ドキュメンタリーとしてその時代の土地の風景を物語とは別に記録しておこうというスタンスも、いつも以上に積極的で優れている。秀作と思う。
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