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[コメント] 美しき諍い女(1991/仏)

下品さを恐れずに言えば、画家は性行為にふけることなく射精を遂げ、女は密室の中で衆人に自らの内臓をさらしたのだ。絵を描く前と絵を描いた後の画家とモデルの関係の一貫性のなさに、いかにもフランス流の冷たい観察力がきらめいている。
ジェリー

主要な舞台となるのは石室のアトリエであるが、石室のアトリエに限らず画家夫婦の住まう家全体がキマイラや剥製の獣など死のイメージに満ちる。この屋内と、果実や木漏れ陽や緑やそよ風の息遣い顕著な庭の生命感の対比は実に強烈だ。この映画の提示する世界のイメージは神話のように単純な二元性をもつ。

画家とモデルはあえて死のイメージに彩られた石室で卑猥さを超えた生命的行為そのもののような絵の創作行為にいそしむ。最初バイブレーションの会わない二人が次第に感情を昂揚させながら絵の完成という共同作業にふけるプロセスは、性描写以上にエロティックである。(古事記に描かれるイザナギとイザナミとを想起させる。これは余談)クロッキー帳に絵を描き始めるまで、ミシェル・ピコリが、テーブルやイーゼル周りを延々と片付ける演技を一切省略することなく長々と記録し続ける執拗なキャメラに私は震えた。これが演出だと思った。

登場時間のおよそ8割を裸で演技し、裸を衣装としたとも言うべきエマニュエル・ベアールがラストシーンの庭で衣服を身に着けて登場したときの通俗的卑猥さに欲情した男性はあまたいたことだろう。裸と衣装の価値の転倒に気づいたときに、特権的な時間が終わったことを甘い追憶と苦い痛みと共に我々は知る。これもまた演出者の周到な計算なのだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus ペペロンチーノ[*] ダリア[*] けにろん[*]

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